有価証券1億円以上は要注意!「財産債務調書」をやさしく解説
財産債務調書とは
マイナンバー制度導入で、個人の資産や税務に関わる情報把握がより一層厳しくなる中、新たに「財産債務調書」の提出が始まります。
その提出の条件は、下記の2つの条件を12月末時点で同時に満たす場合に対象となります。
⑴所得金額の合計額が2000万円以上
⑵資産総額3億円以上または保有有価証券等1億円以上
改正前の「財産債務明細書」については所得金額2000万円以上のみが要件だったところから考えると、一見制度としては緩和されているように思われます。
ですが、下記見本にある通り記載内容は非常に細分化されており、有価証券については銘柄名等の記載まで義務付けされます。
また、罰則についても税務調査等によって課税漏れが発覚した場合には加算税等が課されます。
一方で期限内で正しく提出していれば、調書に記載のある財産又は債務について所得税・相続の申告漏れが生じた場合であっても過少申告税等が5%軽減されます。
まとめると、対象者全体の範囲は狭まるが、対象者については罰則も含めて厳格に管理されるようになるということです。
なお、年末時点での国外資産の残高が5000万円以上ある場合についても一部の例外を除き、「国外財産調書」の提出が義務づけられており、国内外の資産問わず富裕層に対しての課税強化の流れは強まる一方です。
(出所:国税庁HPより)
財産債務調書の財産とは?
土地・建物について
基本的には、当該年度の固定資産税評価額の規定により登録された価格を用いて計算されます。
例外として、年末から申告日までの間に売却が行われた場合については、譲渡価額で算定することも可能です。
生命保険について
その年の12月31日にその保険契約を解約した場合に支払われる解約返戻金の額を財産の価額とします。
満期返戻金を定期金(年金形式)で受取るタイプでも同様で大丈夫です。
また、保険会社等からその年中の12月31日以前の解約返戻金の額を入手している場合は、それを利用することも可能です。
外貨建資産の評価方法
その年の12月31日における外国為替の売買相場により円に換算して計算します。
具体的には取引金融機関が公表するその年の12月31日における最終のTTB(31日に該当相場が無い場合は最も直近の日の相場)により換算を行います。
相続における取扱い
その年の12月31日おいて遺産分割がまだ済んでいない場合は法定相続分、遺産分割による持分が決まっている場合はそれぞれの持分に応じた価額を提出します。
富裕層に対する課税の流れはより一層強化される方向へ
上記の様に、富裕層に対する課税の流れは強まっています。
今回紹介した「財産債務調書」や「国外財産調書」の他にも「出国税」と呼ばれるものがあります。
出国税とは、2015年7月1日以降に国外転出をする居住者が、出国時に時価1億円以上の有価証券等を保有していた場合、出国時に時価で譲渡したものとみなし、含み益が課税される制度です。
また、国外転出だけではなく、海外の居住者に贈与・相続などによって有価証券を国外へ移転する場合にも同制度は適用されます。
これまでの話を、時系列でまとめると、次の通りになります
《2013年末》
「国外財産調書」の導入により富裕層の国外財産の把握が強化されたが、申告件数は実態の数字とはかけ離れた少ない件数にとどまっている。
《2015年7月》
「出国税」の導入により国外財産への課税強化につながり、相続対策等による資産フライトの流れを抑制。
《2015年末》
「財産債務調書」の導入により、国外財産の5000万円以下であっても資産総額3億円以上であれば申告が必要となり、財産把握の対象者はより拡大されるということになる。
国の立場から見れば、マイナンバーも含めた現在の流れは国外財産を把握することで、いわゆる税率の低い国への資産フライトを防止する目的があることが分かると思います。
今後は、グローバルな観点での口座共有の導入も始まるとされており、常に税との闘いを強いられる資産家にとっては今後どのように資産を管理、運用していくか非常に難しい時代と言えるでしょう。
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