弊社の米国リートに対する投資判断  ネガティブ(弱気)
 弊社では日々、様々な投資に関する相談が寄せられます。その中でも、日本の個人投資家の間で人気のある米国(海外)リートファンドの今後の見通しに関する問い合わせは非常に多いです。

そして、2015年12月米国が利上げに踏み切ってからは、米国の利上げがリート市場に与える影響についての質問が多いため、今回弊社の見解をお伝えさせていただきます。
まず結論から申し上げますと、ファイナンシャルスタンダードの米国リートに対する投資判断は2014年下期から一貫してネガティブ(弱気)です。

2015年からの米国の利上げは米国リートの上昇につながらないと判断しています。更に現在の米国リート市場は割高の水準になっていると考えています。今回はその理由について見解を述べさせていただきます。

米国リートの過去の金利上昇時の値動き
前回の利上げ局面【2004年5月~2006年6月】では米国では株やリートは上昇しています。このことから2015年12月から始まった米国の利上げと同時に、米国リートの上昇に期待する声が増えているようです。
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では米国リートは2016年以降も上昇する?
1984年以降、米国では6回利上げの局面がありました。そして利上げ局面はおよそ1年~2年程度続いています。ならば2015年12月から始まった米国の利上げ局面で今後1~2年程度は米国のリートは上昇するのでしょうか。弊社の見解は、そうならないと考えています。
過去5回の米国の利上げ時の、米国株式・米国REIT・ドル円の騰落率を比較してみましょう。
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表を見ると、利上げ局面で上昇しているのはリートより米国株式のようです。
リートは2004年から2006年の利上げ局面以外では米国株式の上昇率に劣ります。2004年~2006年はリートが米国株式の上昇率を圧倒していますが、結局これは住宅バブルが生み出した数字であり、利上げがリート価格の上昇要因だったというわけではないのでしょう。(そのことは2008年のリーマンショックによる住宅バブルの崩壊からも明らかなことでしょう)。

ですから過去の運用成績だけを見れば、アメリカが利上げをすると、その後の運用成績が期待できるのはUS REITよりも米国株式といえそうです。
また、日本人の投資家にとって気になることは、アメリカの利上げ期間中は円高になりやすい傾向がある、ということです。これは(詳しくは後述しますが)アメリカが利上げを行う段階では、既に市場は利上げを織り込んでいるため、利上げを行った後からは米ドルは売られやすい、ということなのではないかと考えます。

つまり過去のケースだけを見れば、利上げ期間中のリートへの投資は米国株式に比べて不利なケースが多く、更に日本の投資家からするとドル安の悪影響も受けやすいため、利益を上げるのは更に難しい、ともいえるのかもしれません。

米国リートは「金利上昇時」ではなく「景気拡大期」に上昇する。
弊社が米国リート市場を割高と考える理由は主に2点です。
①米国の景気サイクルを見ると、米国ではリーマンショック以降の景気拡大期が終わりに近づいている(もしくは終わった)と考えるため
②米国のリート市場は割高な水準であるため


結論から申し上げると、米国リートは「金利上昇時に上昇するのではなく、景気拡大期に上昇する」のです。
景気後退期に不動産の価格が上昇することは、ほとんど無いでしょう。では論点は「米国経済は良いか悪いか」ということになります。

「米国は日本と違って利上げを行っている、経済が好調だから利上げが出来るのだ」という専門家がいますし、逆に「アメリカの企業の業績に注目すると、2016年はリーマンショック以来の減益になっている。ドル高で米国の輸出企業は相当苦しい」という専門家もいます。
一体どちらが正しいのでしょうか?
そして景気が後退しそうな局面に利上げを行うことなどあるのでしょうか?

一般的には「利上げ=景気が良い時にする」と言われています。通常であれば「景気が良くて、これ以上経済が過熱するとバブルが起こってしまう」という場合、中央銀行は金利を上げることによって、景気の過熱を抑えようとします。ですから普通、利上げは景気拡大期に行われることがほとんどです。

しかし一つの経済指標に注目してみましょう。OECD景気先行指数という指標です。
OECD景気先行指数とは、OECD(経済協力開発機構)が作成する経済指標です。GDPより6か月程度先行する指標とされており、景気の転換点をいち早く示す早期シグナルに分類されます。100を上回ると景気は拡大局面、下回ると後退局面とされています。
次のチャートをご覧ください。過去にFRBが利上げを行っている時は、OECD景気先行指数が100を上回っているときに行っています。
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しかし2008年以降は、リーマンショックが米国経済に与えた爪痕が深かったため、景気拡大局面にもかかわらずFRBは利上げを封印し、逆に金融緩和を3度にわたって行いました。

次に失業率と米国金利の関係を見てみましょう。
FRBの使命は雇用の安定であり、過去に失業率が上がるとFRBは利下げし、失業率が下がると逆に利上げを行ってきました。しかしリーマンショック以降は、失業率が下落しているがFRBは景気に配慮をして利上げを行いませんでした。

アメリカは失業率5%でほぼ「完全雇用」と言われています。2016年前半は米国の失業率は5%程度で推移しています。失業率だけを見ると、米国の景気は天井に近いタイミングであり、今後は景気後退局面になってもおかしくない、とも言えそうです。
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過去米国の景気サイクルは6年程度で好景気が終了することが多いようです。リーマンショック以降すでに7年間景気が拡大し、2015年以降は景気が弱くなっていても不思議ではないと考えています。

これまでのFRBの行動パターンから考えると、景気が拡大局面入りを確認できて、失業率が低下し始めたタイミング(2013年頃?)から利上げを行っていたのかもしれません。しかし今回はリーマンショックの悪影響が大きすぎると判断して利上げを行わなかったのでしょう。つまり本来利上げを行うタイミングで利上げが出来なかったのです。

そしてアメリカは景気拡大に伴い失業率は低下。2015年には、ほぼ完全雇用と言われる5%を達成し、景気拡大期は最終局面に入っていたのかもしれません(もしくは既に景気後退局面に入っている可能性もあります)。ですから今後、景気後退が起こり失業率が上昇し始めたら、FRBは利上げよりも利下げを行わなければならないタイミングなのかもしれません。

2015年からの利上げは「景気が良いからバブルを防止するために行う」という意味の利上げではなさそうです。

リーマンショック以降に米国リートを保有して儲かっていた人は、米国の景気拡大の恩恵を最大限受けることが出来た投資家です。しかも海外からの投資家はドル高の恩恵も受けることが出来ました。しかし景気は循環するものであり、ずっといいわけはない、ということに注意が必要です。

以上のことから2015年12月からの利上げは今後の米国リート市場の動向にプラスの材料にはならないと判断しています。

米国リートは割高と判断
米国の景気循環に加えて、ファイナンシャルスタンダードがUS REITに対して抱いている懸念材料は、既に米国リートは割高な水準なのではないか、ということです。次のチャートをご覧ください。リーマンショック以降、米国のリートは(配当込みで)既に約4倍にまで上昇しています。
アベノミクス以降、日本の不動産価格は上昇していると言われています。オフィス賃料・商業用不動産共に確かに上昇に転じているのですが、米国の不動産価格に目を向けると、日本とは比べ物にならないほど急激に上昇をしているようです。既にリーマンショック以前の不動産バブル時の価格水準を超えています。
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リーマンショックが不動産バブルであったなら、その時から10年も経たずに不動産価格がリーマンショック以前の水準を超えていると事には違和感があります。論理的に現在の不動産価格が適切だ、という説明をする事は難しいのではないかと考えています。

リートの価格が割高かどうかを判断する指標は多数ありますが、今回は「各国のリートと国債の利回り格差」について見ていきましょう。

不動産への投資を検討する場合、第一にその物件の良し悪しを判断する指標は利回りです。不動産市況がバブル化している場合には、物件の値上がりを目的に購入する投資家も現れます。しかし、そうした投資行動は長期の目線で行われているものではなく、マネーゲームに過ぎません。

不動産に投資するリートは金利商品です。投資家が最も気にする事はリートの価格に対して、テナントの賃料が安定的にいくら入ってくるのか、という点になります。そして、リートの妥当な利回りがどれだけあれば良いかを判断するうえで、最も頻繁に使われるのはリートと国債(10年満期)との利回り格差になります。

国債とリートの利回り格差について、具体例を挙げて説明します。例えばアメリカのリートの利回りが4%だったとします。そしてアメリカ国債(10年満期)の利回りが2%だったとした場合、利回り格差は4-2=2%となります。
何故このようなことを気にするのでしょうか。

前述したとおり、リートは利回り商品です。仮にリートと国債の利回りが同じ4%だった場合、投資家はどちらの商品を選考するでしょうか。この場合は国債になります。なぜなら国債は事実上リスクなしの商品と考えられています。リスクなしで4%の利回りが約束される商品に対して、リートは価格変動リスクがあります。ですからリスクがある分、国債よりも高い金利がないと割に合わない、というわけです。
ですから

・国債とリートの利回り格差が大きい場合
・今後、国債の金利低下などで国債とリートの利回り格差が拡大することが期待される場合


には、リートの投資妙味は大きくなります。逆に、

・国債とリートの利回り格差が小さい場合
・今後、国債の金利上昇がありそうで、国債とリートの利回り格差が縮小する場合


にはリートの投資妙味は小さくなります。では、各国の国債とリートの利回り格差は現状ではどうなっているのでしょうか。次のグラフをご覧ください。
緑色の部分が各国の利回り格差になります。米国とオーストラリアは2%程度と利回り格差は小さく、オランダやカナダは5%以上と大きくなっています。
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日本のリート(J-REIT)はどうでしょうか。現状では国債との利回り格差は3%程度となっています。2016年1月から実施されたマイナス金利の影響で国債の利回りが低下しているため、リートとの利回り格差は拡大傾向にあります。今後も黒田日銀がマイナス金利の幅を拡大する場合、利回り格差のさらなる拡大が見込まれ、その場合には日本のリートの価格は上昇傾向になる可能性がありそうです。

また、金利の低下はリートにとっては有利に働きます。リートは不動産物件を購入するために市場から資金調達(借入)をしており、利息を債権者に支払わなければいけません。ですから市場の金利が低下すると、借り入れをした資金の利息負担が少なくなるため、その分利益が増えるという事になります。

日本では現在、地方銀行が日本のリートを積極的に購入していると言われています。銀行は預金者から預かった資金を融資したり、投資をしたりして利益を上げます。しかし、近年は融資先が減少しており、余った資金を国債で運用して利益を出していました。それがアベノミクス以降の金融緩和やマイナス金利政策の導入で、国債の金利がなくなり、国債を運用先にし続けることに限界が生まれました。
そのため、地銀にとっては国債に代わる投資先として、為替リスクを取らずに3%程度の利回りが期待できる日本のリートは魅力的に映り、投資を増やしているようです。

それに対して米国はどうでしょうか?
米国のリート市場は日本とはずいぶん違ってきています。まず利回り格差が2%程度に低下しています。「リートの価格が大幅に上昇しているため割高になっている」ということです。

また日米の金融政策も大きく異なります。日本は金融緩和を積極的に継続することで、金利を下げる政策を採っていますが、米国は2015年から利上げを行っています。つまり利上げを行うたびに現在2%程度しかない利回り格差が更に縮小する可能性があります。
そして、利上げすると利払い負担の増加からリートの収益性は低下するため、リートの利回りは低下する可能性があります。このことで更に国債とリートとの利回り格差が縮小する可能性には注意が必要となります。

先程から『1%』『2%』の利回り格差について述べていますが、「そんな小さなことを・・・」と考える投資家も中にはいるかもしれません。しかし、1%の利回りの上昇や低下というのは元本に大きな影響を与えるのです。

例えば「株価1000円 配当40円」の株の配当利回りは4%です。その株が配当金額40円は変わらないまま利回りが5%まで上昇した場合、株価は何円になるでしょうか?

40÷5%(0.05)=800円になります。このように利回りが1%上下する、ということが元本価格に与える影響は非常に大きいのです。米国リートの利回りはリーマンショック時には14%弱ありました。それが現状4%程度まで低下しているということですから、元本がこれまでに驚異的な上昇をしてきた、ということが分かるはずです。

世界のリートと国債の利回り格差の平均は3~4%程度です。米国リートの利回り格差が、世界の平均まで上昇するためにはどうすればいいのでしょうか。二通り考えられそうです。

①リートの賃料上昇が起こり分配額が増加することで、リートの利回りが上昇し、国債との利回り格差が拡大するケース
②リートの価格が下落することで配当利回りが上昇し、国債との利回り格差が拡大するケース


になります。しかし前述のとおり、米国のリートのテナント料が今以上に上昇することは難しいのではないでしょうか。ニューヨークの賃料が高騰している例として、次のようなニュースがありました。

・トム・ハンクス主演の「ビッグ」や、「ホームアローン2」の舞台にもなったニューヨークを象徴するおもちゃ屋の一つであるFAOシュワルツは高騰する賃料の影響により、5番街の旗艦店を2015年7月15日に閉店した。同社は1862年創業の米国では最古のおもちゃ屋だが、近年はネットショップやディスカウント店との競争に苦しんでいた。このような象徴的な店が賃料上昇を契機に撤退を余儀なくされている。

また、ニューヨークの家賃の相場を調べてみると(もちろん地域によってずいぶん違いますが)1ベッドルームの部屋の相場が3000ドルとのことでした。信じがたかったので筆者の知人(ニューヨーク在住)に確認したところ、知人が現在住んでいるのは2ベッドルームの部屋で家賃は4200ドルとのことでした。
このように米国の不動産市況は日本と比較しても過熱感があるのではないかと懸念しているのです。

人気のリートファンド。小さいマーケットに資金が流入
米国のリート市場を上昇させた要因は米国外の投資家がリートに投資したことも大きいと思われます。
以下の表をご覧ください。日本の人気投信上位10位のうち6銘柄は米国リートの含まれたものです。
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これら6銘柄の純資産総額だけで6兆円を超えており、更に現在も米国リート関連の投資信託は毎月資産流入額の上位を占めています。米国リートの市場規模は2016年5月現在で約1兆ドルです(世界のREITの時価総額は2016年4月末現在 約162兆円と過去最高水準)。あまり大きくない市場に巨額の資金が流入したと言えます。

1兆ドル(2016年5月21日現在 約110兆円)の市場に対して6兆円というのはどの程度の影響なのでしょうか。アベノミクスが本格的に始動した2013年に1年間で外国人投資家は日本株式を約15兆円の買い越しました。当時の日本の株式市場の時価総額は300兆円程度でしたので、時価総額に対して5%程度の資金流入があっただけで日本株式は歴史的な上昇をしました。
そのことから考えると、米国リートの110兆円市場に日本の投資家からだけで6兆円以上の資金流入があったというのは、非常に大きな影響があったと言えそうです。

ドイチェ・アセット・マネジメントの調べでは2016年1月~4月に海外リートファンドへの資金流入が増えており、購入から解約を差し引いた純流入額が9017億円にのぼり、昨年の同期間よりも27%増加しています。また5月も資金流入は続いており、年間で2兆円を超える可能性もあるとのことです。日本では海外リートへの投資熱が加熱し続けていると考えた方がよさそうです。
しかし一気に巨額の資金流入があった場合には、その後は注意が必要です。ご存じのとおり2015年7月以降、日本株は外国人投資家の大幅な売り越しのため急落をしました。一気に資金が流入した市場は誰もが儲かっているため、相場が反落したら投資家は迷わず一気に売却する傾向があります。

今後リート価格の下落と米ドルの下落から米国リートに投資した投資家の売りが増加することがあれば、リート価格が急落することもあるかもしれません。

まとめ
・リートは利上げの時期に上昇するのではなく、景気拡大期に上昇する。
・米国はリーマンショック後の景気拡大期に利上げが出来なかった。金利低下時や景気拡大局面に有利なリートは、リーマン後の7年間、その恩恵を最大限受けられる環境にあったため、大幅に上昇したと考えられる。
・米国リートは価格・利回り格差共に他国と比較して割高である可能性が高い。
・リーマンショック以降の金融緩和により多くの資金が米国リート市場に流入した。日本やヨーロッパからも資金が大量に流入した。
・景気循環からは米国の景気はピークに近く、リートも割高水準であると考えるため、今後米国のリートの価格動向についてファイナンシャルスタンダードは弱気の見通しを持っている。
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追記 利上げとドル円相場
米国の利上げで米ドルが上昇すると聞いた人は多いのではないでしょうか。本来利上げをしたら、その通貨の魅力が増しますので上昇要因です。しかし2015年12月に利上げが実施されて以来、米ドルは各国通貨に対して大幅に下落しています。
次のチャートは2015年の利上げを含む、米国の過去5回の利上げ開始日前後180日の価格推移です。利上げ当日を100として指数化してあります。
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このように米国の利上げは、利上げが実施されると下落する傾向があるように見えます。これは米国の利上げは、利上げが実施されるずっと以前から市場では織り込まれており、先に安い価格で購入した投資家が利益確定で売っていると考えられます。「噂で買って、事実で売る」ということです。

実際にドルは2014年秋から日本円だけでなく各国通貨に対して大幅に上昇していました。2015年12月に利上げが行われるより1年以上も前から投資家はドルの利上げを見越して先に投資をしていたのです。

「今後~~という理由で値上がりが期待できる」という話を聞いた時には、その材料が既に市場で織り込まれていないかを確認する必要があるのです。
リートの値動きに加えて、米ドルの今後の動きにも注意が必要になるのでしょう。

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