金融緩和「お金の量をジャブジャブにする」ってどういうこと?
経済ニュースを眺めていると、まるで慣用句のように使われる「お金の量をジャブジャブにする」という不思議な経済用語に出会うことがあります。なんとなく、世の中にたくさんのお金が溢れるイメージは伝わりますが、その正確な意味や目的を答えるとなれば、言葉に詰まってしまう方も多いのではないでしょうか。
今回は、「お金をジャブジャブにする」とはいったいどんな状態なのか、そしてどんな目的で行われて、どのように私たちの生活に関わるのか、知っているようで知らない日本経済のキーワードに迫りました。
「お金の量をジャブジャブにする」って、どういうこと?
1990年代のバブル崩壊後、長引くデフレは日本経済の成長を大きく妨げる要因となり、「失われた20年」と呼ばれる不況の時代を生み出しました。
このしつこいデフレの脱却を目指して、2012年の12月に発足した第2次安倍政権が掲げた経済成長戦略「アベノミクス」の3本の矢(「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「投資を喚起する成長戦略」)で、第1の矢として位置づけられるのが、日銀が2013年4月に発表した量的・質的緩和政策、いわゆる「異次元緩和」です。
前年度比2%のゆるやかなインフレ率を目標に、世の中に出回っている流通現金と、金融機関が預金の払い戻しに備えて日銀に預けている「当座預金」の残高の合計した資金供給量(マネタリーベース)を、わずか2年で2倍まで増やすという、まさに異次元の「量的金融緩和」で景気の回復を図りました。
実体経済の中で流通するお金の量を増やすことで経済を刺激する、こうした日銀の金融緩和政策を「お金の量をジャブジャブにする」という言葉で表現しているのです。
また、日銀は当座預金残高の中から、銀行が持つ長期国債や、インデックス型の投資信託を株のように売買できるETF、不動産を保有せずに不動産投資ができるREIT(リート)など金融商品を買い入れる額を増やす「質的金融緩和」も併せて行いました。銀行が企業や個人に貸し出す「貸付け」に回せるお金の量を増やすことで、広く企業や家庭まで行き渡らせようと試みました。
しかし、長年不況の続いてきた世の中では、企業や個人もなかなかお金を借りてはくれません。
そのため銀行は貸付けきれずに余ったお金を、「銀行の銀行」の役割を果たしている日銀の当座預金へ預け、その利息で少しでも利益を得ようとしました。
結局、日銀が「お金の量をジャブジャブにする」ために、銀行に増やしたお金の一部は、狙い通りに企業や家庭に回ることなく、もう一度日銀に戻る結果となったのです。
さらに「お金の量をジャブジャブにする」ために…マイナス金利政策の狙い
市中銀行が日銀に預けたままになっているお金は、いつまでたっても市場に流通することがありません。
そこで、2016年1月に日銀が打ち出した新たな金融緩和が、「マイナス金利」です。
マイナス金利といっても、私たちの預金が直接マイナスになるわけではありません。
銀行や金融機関が日銀に開いている当座預金の一部のお金に、年間マイナス0.1%の金利が課す金融緩和政策なのです。
(関連コラム:ようやく分かったマイナス金利、市場/生活への影響は?)
銀行としても、余ったお金を日銀にお金を預けたままでは毎年損をしてしまうとなれば、当座預金から株式や外国債券など証券投資、あるいは企業や個人への貸付けに積極的に振り向け、市場へと流す必要が生まれます。
こうして、これまで日銀当座預金というコップの中に納まっていた「動かない」お金を、まるで水があふれるように市場の中に流しこみ、企業や家庭に潤沢にお金が回るように通貨供給量を増やす、「お金をジャブジャブにする」状況を作ろうとしたのです。
インフレの時代を生き抜くために!金融緩和のメリットを生かした資産運用
しかし銀行が余ったお金を貸付けて世の中に流すためには、まずはお金を借りてくれる貸し出し先を見つけなければなりません。
そこで銀行は、企業が設備投資や開発投資、M&Aに振り向ける事業資金として、個人が住宅や自動車などを購入する際にローンで積極的にお金を借りてもらえるように様々な金利を引き下げました。
マイナス金利で、私たちが銀行にお金を預けた時の預金金利も、ほとんど0%まで下がりました。
しかし同時に、個人のローンや企業の借入金利は、もっと大きく下がりました。
私たちに身近なところでいえば、住宅ローンやマイカーローン、不動産投資ローンが、史上空前といえる低金利で借りられるようになったのはご存じのとおりです。
金利の低い今のうちに住宅を買おうか・・と考える人も増えたことでしょう。
そして、継続して物価が下がるデフレの時代と違い、市場に流れるお金の量が増えたことで市中の需要が掘り起こされ、物の価値が緩やかに、そして年々上がっていくインフレの時代を迎えた今は、これまでのように資産を現金としてそのまま所持していても、その価値は毎年少しずつ目減りしていくことも抑えておくべきでしょう。
景気を悪化の要因となる企業の価格や賃金設定額の低さや、モノの消費を抑えて貯蓄を優先する家計の消費行動に対して、一種のショック療法として導入されてきた、日銀の「お金の量をジャブジャブにする」金融緩和。
これからの時代の賢い資産運用には、マイナス金利をはじめとする金融緩和政策のメリットを最大限に活用しながら、一人一人が少しでも高い金利を得られる手段を選択していくことが、ますます大切になっているのです。