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原油価格、上昇の条件は一体何か?

2016/02/04

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原油は2014年から下がり続けている 短期要因と長期要因

昨年12月から原油価格の下落が話題になっています。しかし原油価格は2014年から既に下がっており、2014年前半に1バレル100ドル台でしたが、2015年前半には40ドル台まで下落していました。

原油価格は2014年夏から下落に転じていた

なぜ下がり続けているのかについては、長期要因と短期要因に分けて考える必要があると思います。
主な長期要因は
①シェールオイル増産からの需給悪化
②(中国中心の)景気減速懸念からの需給悪化
③米国の利上げ

などがあげられます。
原油価格が下落し始めた2014年半ばは、米国でリーマンショック以降続いていた金融緩和の終了観測が本格的に市場で意識され始めたころです。また、中国の景気減速懸念のニュースも多くなっていたころです。一つの要因ではなく、複合的な要因で原油価格は既に下落し始めていたのです。

短期要因としては
①OPECが協調減産を行わなかった
②イランの原油輸出解禁
③2015年12月米国利上げ
④IMF経済見通し下方修正
⑤ヘッジファンドの売り

などがあげられます。

OPECとは

OPECとは石油輸出国の利益を確保するための価格カルテルです。かつて国際石油資本が一方的に石油価格を引き下げたことに反発して、1960年に設立されました。当初の加盟国はサウジアラビア、イラク、イラン、クウェート、ベネズエラの5か国だったが、現在は中東以外の加盟国も加わり13か国となっています。(昔に比べるとシェアは減少したといえ)OPECは現在でも世界の原油供給の約4割を占めています。そのため価格調整機能が高いのです。

価格調整機能とは、具体的には原油が余って価格が下落した際には、OPECが協調して原油の生産量を減らして、価格の維持を図るなどの措置のことです。

しかし、近年は掘削技術の進歩などから、中東以外の国々(特に非OPEC加盟国)の原油の生産量が増加傾向となっています。そのため原油価格が下落して、OPECが生産量を減らし原油価格がその後上昇しても、非OPEC加盟国は原油生産量を維持し続け高値で売却したり、それまでのOPECの取引先を開拓したりして、OPECのシェアを奪ってきました。
そうした経緯もあり、最近OPECは供給過多から原油価格が下落してもOPECの生産量を減らすことなく、シェアの維持を続けています。そのため更に原油が余り、価格がさらに下落する、という悪循環に陥っているとも言われます。

OPECは原油価格が下落すると生産量を減らしていたが、2014年以降は増産している

特に2010年以降、米国はシェールオイルの生産の増加から、日々の原油生産量はサウジアラビアに迫る勢いで、需給悪化に大きな影響を与えています。

2010年代米国の原油生産量は急拡大している

安易に減産を出来ないOPECは、原油安を容認して我慢比べの状態に入っていると言われています。
米国のシェールオイルは中東の産油国に比べて採掘コストが高いため、低価格の状態が続けば近いうちに廃業する業者が増え、その結果供給が減るという思惑があったようです。しかし、シェールオイルを掘削する企業は効率的な生産方法を開発し、採算ラインはどんどん低下していると言われています。
このような経緯から2015年のOPEC総会では6月12月ともに減産を見送りました。そのため市場からはOPECは価格調整機能を失った、という見方が強まり昨年末以来の原油価格の急落のきっかけとなったのです。

売買単位1バレルとは。 ドルとの関係は

国際的に原油・石油製品の取引は1バレル単位で行われます。1バレルは約159リットルです。昔、アメリカのペンシルバニア油田では、原油を樽に詰めて運搬していたので原油の単位を樽で数えていた、その名残のようです。それがその後、国際的な原油・石油製品の取引の体積の 単位となったようです。
1バレル30ドルなら為替が120円として、3600円(1リットルあたり約23円弱)で取引されており、飲料水の方が断然高いのが現状です。日本人からみると妙な気もします。自動車の運転に必要なガソリンはWTIなどの原油価格が安くなれば、(時間差はありますが)安くなる傾向にあります。ただ、日本は原油を輸入しているので、為替の影響もあります。原油安・円高が最もガソリンが安値になる組み合わせになります。

原油価格とガソリン価格の連動性は高い

また、一般的に原油や金といった「コモディティ」と言われるものは、歴史的に米ドルと逆相関の関係にあると言われています。(参考:金価格とドルの関係 逆相関関係は続くのか?)
2014年半ば以降、米国の利上げが意識され始めました。金利の上昇は基本的にその通貨の投資妙味が増しますので買い材料です。それに伴って、金など金利のつかない商品(コモディティ)の魅力が相対的に薄れて、価格下落につながっているようです。

歴史的に米ドルと原油価格は逆の動きをすることが多い

歴史的にいくらくらい?

過去原油価格は10ドル~30ドル程度の値段で取引される期間が長く続いていました。しかし2003年のイラク戦争を機に価格の上昇傾向が鮮明になりました。その後も中東情勢の不安定化、中国の経済成長による需要増加、サブプライムバブル期の投機マネーの流入もあり、2008年7月には147.27ドルまで上昇しました。

日本にとってのいい点 悪い点

日本のような資源輸入国にとって原油安は経済的にプラスに作用します。しかしこのことも長期/短期要因に分ける必要があります。
プラスの側面は
・飛行機 自動車などガソリンを使う業種はもちろん有利に作用する
・化学メーカーはもちろん製造業は基本有利
・農家ですらビニールハウスや暖房費が安くなる

ガソリン価格が安くなると自動車で出かける人が多くなります。外出の機会が増えるとその分お金を使う金額も増えるため景気の回復につながります。

電気代やガス代も安くなるため、家計の可処分所得は増えるし、大口電力使用者である工場などは電気代が安くなればその分コスト削減(利益上昇)の要因となります。実際に原油価格が下落した分は企業の収益改善につながり、アベノミクス以降の最高益更新に寄与しています。
逆に損をする業種は資源権益を多く保有している総合商社や石油元売り各社 エネルギープラント企業などがあげられます。しかし日本経済の全体から見れば原油安は経済にとってプラス要因であり、そもそも原油価格下落を背景に世界経済が後退局面入りしたことはない(景気後退のきっかけにはならない)、という事を認識しておかなくてはいけないでしょう。

しかし、最近は短期的なマイナスの側面が注目されているようです。短期的なマイナスポイントとしては
・原油と株価の連鎖安(原油価格下落→エネルギー株が下落→米国株式市場で売りが幅広い銘柄に広がり→NYダウが下落→日経平均が下落)
・原油価格下落が物価の下落につながり、デフレ懸念が生じる
・原油価格の動向が落ち着くまで企業が新規の設備投資などを抑制する→経済減速懸念が生まれる→他の業種まで売られる・・という悪循環

などが挙げられます。

原油価格の下落に伴い、各国の株価が下落している

他の国への影響 産油国 先進国 資源国

原油安が日本経済に与えるプラス要因・マイナス要因とは別に、他の国のプラス/マイナス要因も確認しましょう。

・産油国は歳入の大半を原油の売却に頼っているので厳しい。

・先進国においては 資源輸入国にはプラスだが、デフレ懸念を生む。オイルマネーが各国の株式市場から資金を引き揚げて株式市場に悪影響を与えている。

・資源国は、中国の景気減速懸念による需要低下から資源価格は下落。 オーストラリアは資源投資ブームが終わり、景気は減速傾向。

日本の投資家の注意点 株安 ハイイールド債券ファンド

日経平均株価は2016年1月、一時約3000円下落しましたが、バリュエーションは割安と言われており、長期の投資家にとっては原油安がメリットとなる優良銘柄の投資時期にはいいかもしれません。
日本の個人投資家に人気の高いハイイールド債券系のファンドに組み入れられている社債には、エネルギー・資源系の企業の社債も多くその業績不安から価格の下落が続いています。
(参考:12月米利上げが日本株などに与える影響は?)

上がるのか?適正値は?

原油などのコモディティは、企業や不動産と違って毎年収益や金利を生みだすものではありません。そのため価格形成の要因では需給が最重要の問題となるため、理論値や適性値などと言われる価格の算定は難しいのが現状です。

需給関係に注目をすると、原油先物市場でヘッジファンドなど(いわゆる投機筋)売りポジションが過去最高水準まで積みあがっています。きっかけがあれば、売りのポジションに買い戻しが一斉に入り、大幅上昇に転換する可能性はあり得そうです。

投機筋のショートポジションの増加に伴って原油価格は下落
投機筋のショートポジションの残高は過去最高水準

しかし、「きっかけ」とはいったい何がありうるのでしょうか?
前述の通り、原油の価格形成要因は「需給」が基本のため、消費国(特に中国)の需要が増えるか、産油国が生産調整するかのどちらかが価格の安定には必要となりそうです。
原油の消費量は米国・中国が圧倒的に大きいのですが、現在は中国の景気減速から原油の消費量が加速度的に増加すると考えている人は少ないようです。ですから現時点では原油の消費量の増加を期待するよりも、各国が協調して生産調整をする方が原油価格上昇のきっかけとしては早いし現実的なのかもしれません。しかし、主要な原油生産国同士は現在利害関係が複雑になっており、すぐに協調とはいかないだろう、と誰もが感じているのではないでしょうか。

中国の景気減速(原油消費量の減少)が現在懸念されている

利害関係が複雑に対立している国同士が協調することは可能なのか?

筆者の私見では、主要な原油生産国が協調して減産を行う可能性は十分あると考えています。その理由は現在の原油安が各国にとって想定外の水準だからです。
ロシアは今年の国家予算を組む際に、原油価格を1バレル50ドル想定で編成したため、現在の原油安は想定外の打撃となります。
サウジアラビアの誤算は、前述した米国のシェールオイルの掘削業者が原油安なのに廃業(減産)が進まない点。そして原油安で米国が打撃を受ける前に、複数のOPEC加盟国の財政が厳しくなり、それらの国々が減産を求め始めている点。
米国は、今回の問題を機に中国が中東諸国に接近しており、その存在感が中東で増している点について懸念を深めているのではないでしょうか。
このように各国にとって厳しい状況が続く状況ですので、打開策を探る動きは今後活発になると考えています。

経済は「ほどほど」の状態が一番居心地のいいものです。景気が盛り上がりすぎるとバブルになるし、下がりすぎると不況になります。
米ドルが安すぎると日本の輸出企業が儲からないし、デフレ懸念も生じてしまいますが、円安すぎると物価が高騰するし、海外旅行も行きにくい。原油が安すぎるとデフレ懸念や資源国資産の換金売りを招くし、高すぎると製造業が疲弊したり、我々の生活も大変になったりします。

世界のグローバル化に伴って、これまでは一般的に景気に良いとされていた現象のはずなのに、最近はマイナスの作用ばかりが目立つというケースが増えています。今回の原油安も、単純に「原油安=日本には有利」と言い切れない状況になっているのは事実ですが、逆に目先の不安要素にばかり振り回されることなく、新たな経済情勢を俯瞰的に捉え直す機会でもあります。原油安は日本にとっては成長要因ですので、この状況をチャンスに変える行動を取れた企業や投資家が、その分野の新たな時代のリーダーとなっていくでしょう。

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