平成30年度税制改正大綱における事業承継税制の改正(後編)
【3】 事業承継税制が進む誤った方向性(私見)
今回の平成30年度税制改正大綱で税制改正が行われ、日本の中小企業の減少に歯止めをかける素晴らしい政策として期待されていますが、その効果はほとんど無いと思われます。
私見ではありますが、雇用確保要件の緩和が事業承継税制の利用促進に有効であると一部の専門家から主張されることがありますが、中小企業の現状を見ていない、意味のない議論であると思います。
なぜなら、雇用確保要件の改正の対象となる常時使用従業員数4人以下という零細な小規模企業は、株価が高くなって税金が払えないような状況を想定することができず、税制改正の恩恵を受ける中小企業は、ほとんど無いと考えられるからです。
また、親族外承継においても事業承継税制の利用促進する制度が必要であると主張されることもありますが、親族外承継で贈与するケースは、価値ある会社を「タダで他人に差し上げる」非合理的な行為であり、金銭に対する欲求を全く持っていない大富豪を除き、親族外の後継者に無償で株式を譲渡しようと考える先代経営者は極めて少数であると考えられるからです。
今回の税制改正の目玉である納税猶予対象の拡大(3分の2→全株、課税価格の80%→100%)にしても、結局のところ、税金の支払いで困ることなどない優良企業に対して、節税手段を与えているに過ぎません。
中小企業の事業承継問題は、事業承継税制では解決することはできません。真の解決策となりうる政策が生み出されるよう、来年度以降の経済産業省のお役人の方々には、強く期待したいと思います。