中長期のJ-REIT価格は株式と連動する傾向が強い

横田くん:
J-REITの価格変動リスクが案外大きいこと、収益変動は対株式では小さいこと等、少しずつ分かってきましたが、もう少し価格変動の傾向みたいなものを教えて貰えませんか? 
というのも、お客様との会話では金融政策とJ-REITの関係が話題になることが多く、例えばこれから金利が上昇するからJ-REITには逆風とか、量的緩和拡大だから追い風、みたいなやり取りが増えています! この辺りのメカニズムが十分腹落ちしていなくて、何となくモヤモヤ感が残っています・・・

投信先生:
それでは、図表6を見てほしい。チャート上の青の部分は、J-REITの対TOPIX累積超過収益率を示している。J-REITリターンがTOPIXをどの程度累積で上回ってきたのか(下回ってきたのか)が分かるようになっているよ。
例えばチャート上の青の部分が50%ということは、J-REITの累積リターンがTOPIXを50%上回ったことを示している(非年率換算値)。それと10年国債利回りのチャートを重ねれば、例えば金利低下局面ではJ-REITが対株式で選好され易い、等の傾向が分かるようになっている。

横田くん:
うーん・・・チャート上の青い部分(J-REITの超過リターン)は大きく変動していますが、①2012年から2013年頃、②2015年後半から2016年頃、③2018年後半から直近迄、等が最も目立っていますね・・・
そうか! 特に①、②はいずれも日銀の金融政策が大きく変わったタイミングですね!①は大規模量的緩和の開始(通称「黒田バズーカ」)、②はたしかマイナス金利導入ですよね?③は日銀には特に何もないけど、FRBの利上げ停止となったタイミングです! やっぱり金利低下はJ-REITにとって大きな追い風になっているということですね?

(図表6)J-REITの超過リターンと10年国債利回りの比較
10年国債利回りが急低下する局面ではJ-REITが反発する傾向(対株式)

スライド6.JPG

(Bloombergデータよりファイナンシャルスタンダード作成)


投信先生:
短期的には横田くんの指摘の通り、J-REIT価格は金融政策や金利動向に大きく影響されることが多いね。
でも次の図表7を見てほしい。これは債券価格とJ-REITの相関係数を示しているけど(-1~+1で変動:1に近いと価格変動は連動、-1に近いと価格変動は逆方向)、長期平均はゼロに近い(0.07)。

たしかに横田くんの指摘してくれた期間(前述の期間①~③)では相関が上昇しているけど、過去を見る限り、それは長く続かないことを示している。更に次の図表8を見てごらん。J-REITはどちらかと言えば株式との相関が強いことを示しているよ。対株式との相関も短期では大きく変動するけど、全期間の平均は0.56と結構高く、冒頭の話とも符合する(J-REITの価格変動は株式並みに大きい)。つまりJ-REITはどちらかと言えば株式に近い性質を持っているということだ。

(図表7)債券とJ-REITの相関(過去12か月のローリング相関)
スライド7.JPG

(Bloombergデータよりファイナンシャルスタンダード作成)



(図表8)TOPIXとJ-REITの相関(過去12か月のローリング相関)
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(Bloombergデータよりファイナンシャルスタンダード作成)

横田くん:
結構ショッキングなコメントですね・・・お客様とは金利とJ-REITに関する話題が多かったので。これでは完全に的外れになってしまいますね。
でも、なぜJ-REITは株式との相関がここまで高くなるのですか?今一つ理由が分からないし、腑に落ちない部分はあります・・・

投信先生:
先ほどJ-REITの収益(個別REITの会計利益の合計値)は対株式では安定しているという話をしたけど、それはあくまで対株式との比較の話。
J-REITの収益変動も絶対値で考えれば結構大きな変動をしている。

例えば、次のチャートを見てほしい。これはJ-REITの主力資産であるオフィス市場の動向を示したものだけど、賃料、空室率共に大きく変動している様子が分かるでしょう?これだけ変動すれば、J-REITの売上や利益が大きく変動しても不思議ではないよ。
特に金融危機前後では賃料は2割下落、空室率も2%から7%まで急激に悪化している。空室率は2003年前後にも大きな変動をしているね。このような指標を見る限り、オフィス市場そのものが大きく変動する可能性を示唆しており、少なくとも「安定」とは程遠いことが分かるでしょう?

また図表10は「オフィスの平均キャップレート」を示している。これは実物不動産であるオフィスビルを取引する際、買い手がオフィス投資に求める投資収益率だ。投資家がオフィスビルを取得した時の現金収入利回りに近いイメージだね。これが低下すれば、それはオフィスビルの値上がりを意味している(株式のPERと類似)。これも3~4年の比較的短期間で大きく変動する傾向があり、これもJ-REITの株価(投資口価格)を変動させる要因になる。

(図表9)主要なJ-REITが保有するオフィス物件の空室率と賃料状況
スライド9.JPG

(不動産証券化協会データよりファイナンシャルスタンダード作成)


(図表10)投資家がオフィス投資に求める現金収入利回り
スライド10.JPG

(不動産証券化協会データよりファイナンシャルスタンダード作成)


横田くん:
確かにすごい変動をしていますね・・でもオフィス需要(空室率)はなぜこんなに変動するものなのですか?企業はそんなにオフィスを変えたりするものですか?

投信先生:
オフィス需要の動向に関しては様々な見方があるけど、基本は企業収益と連動する傾向が知られている。オフィスは人が働く場所であり、例えば企業が人材採用する場合、魅力的なオフィス環境は人材獲得競争で優位に立てる原動力になるよね。そもそも企業収益が回復してくれば、企業の人手が不足してきて、新卒や中途採用で雇用自体を増やすでしょう?

だから景気が良くなると企業の財布が緩み、人の採用も増やすし、良い立地のオフィス、広いオフィススペースを求めるようにもなる。逆に景気が悪くなって企業収益が減ってくると、全ての歯車が逆回転することになる。結局オフィス需要のドライバーは企業収益ということになり、これがJ-REITと株式が高い相関を持つ根本理由だと思うよ。常識的に考えても、景気が悪くなってオフィス需要だけが強いという環境も考えにくいでしょう?

横田くん:
先生、有難うございました。ようやくJ-REITの特性、特にリスクが高いこと、株式と価格変動が似ていること、等のメカニズムが分かってきました!
≪ここまでのまとめ≫
・J-REITの価格変動は株式と高い相関がある(債券とは低相関)。
・J-REITの価格変動リスクは大きいが、それは収益自体(会計利益)の変動リスクが大きいのが理由。
・オフィス市場(J-REITの主力物件)の需要動向は景気次第で大きく変動。
・J-REITの保有する実物不動産価格自体も大きく変動(平均キャップレートの変動)。
・オフィス需要等の不動産実需、実物不動産価格は大きく変動する傾向。


全体のまとめ
以上見てきた通り、J-REITの価格変動は結構大きく、その価格自体も株式市場と連動する傾向があります。

過去4~5年は株式市場が乱高下する状況の中、J-REIT価格は堅調に推移していますが、過去の歴史を振り返れば、今後もこの状況が継続するか否かに関しては、かなりの不確実性が存在することが分かります。
J-REITの主力物件は現状ではオフィスになっていますが、オフィス需要自体が企業収益に依存する度合いが強く、結局J-REITの売上・利益が景気の影響を強く受けてしまう仕組みが存在しているからです。企業収益の変動は株価を変動させる最大の要因として知られていますが、その意味ではJ-REITも似ていると言えるでしょう。また実物不動産価格は近年上昇する傾向にありますが、過去を振り返れば、その取引価格は決して安定しておらず、大きな変動を繰り返してきました(キャップレートの変動)。

もちろん、J-REITには会計利益の過半を株主還元する仕組みがビルトインされており、J-REITの会計利益は株式とそん色ない成長をしてきた歴史もあります(=配当金も継続的に増加)。したがって、対株式で見た場合のJ-REITの投資魅力度は決して見劣りするものではありません。

金融商品を選択する上で重要なことは、公平な視点で客観的にデータを見ていくことだと思います。直近の価格動向だけを見て物事を判断したり、何となくのイメージだけで判断すると、大きな後悔に繋がるリスクがあります。リスクを闇雲に怖がる必要はないと思いますが、どの程度のリスクが存在するのか、そのリスクの源泉は何なのか、このような視点が重要だと思います。そうすれば誤解や思い込みに基づく判断ミスを減らせる可能性が高まると思います。




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