再燃する米財政問題、隠れた爆弾の「米利上げ」
悪化する米財政赤字問題をめぐり、共和党と民主党の政争が激化して予算案が成立せず、米政府が2013年10月に一時閉鎖へと追い込まれたことを覚えていますか?
その後、米議会やメディアの関心は比較的好調な米経済成長や金融・貿易政策に移り、米国の財政状態はあまり報じられなくなりました。
問題は、もう解決したのでしょうか。
実は、一時減少していた米財政赤字は再び膨らみ始めているのです。それだけではありません。
近づく米利上げで市場の長期金利が不安定化し、米国債の金利支払いが急増し、財政をより圧迫する「隠れた爆弾」を心配する声も上がっています。
ここで、過去数か月の論調を振り返ってみましょう。
米財務省によると、連邦政府の累積債務残高は3月に、ついに法定上限の18兆ドル(約2215兆円)を超え、米国内総生産(GDP)の100%以上に達しました。
政府債務がGDPの246%という日本に比べれば、大したことがないようにも思えますが、現地では共和党を中心に危機感が募り始めています。
米国では、2008年の金融危機以前、この比率は40%に過ぎなかったのですが、危機後の景気刺激策で政府支出が増大し、2013年には2倍の78%に達しました。米議会予算局(CBO)の試算では、これからも毎年、赤字が1兆ドルずつ積み上がっていくそうです。
この調子でいけば、2039年には累積債務残高はGDPの180%に増加するとされています。それだけでも大変なのですが、ボストン大学のローレンス・コトリコフ教授は、CBOの予測が社会保障経費・医療費増大・金利上昇を織り込んでいないため、楽観的過ぎると言います。
こうした議論でよく引き合いに出されるのが、我が日本です。
米政治評論サイト『ナショナル・インタレスト』は、「日本をはじめ、多くの国でGDPに対する累積債務残高は100%を超えているにも関わらず、長期国債の金利は低下しているので、政府債務の金利支払いが可能である限り債務残高は重要でない」としています。
さらに、「重要なのは政府の収入に対する国債金利支払いの割合であり、米国では1995年の17%から2014年には8%に下がり、毎年の支払い金額自体も変わっていない」と指摘しています。
米利上げが地雷原
こうしたなか、ローレンス・サマーズ元米財務長官やプリンストン大学のポール・クルーグマン教授は、「経済成長を押し上げるインフラ投資などで、もっと政府の赤字を増やせ」と唱えています。
ここでも引き合いに出されるのは日本です。政府債務が膨張し切った我が国でさえ国債の長期金利は0.5%だから、米政府も長期金利が低いレベルの今こそ、もっと借りろというわけです。
クルーグマン教授は、「政府がもっと借金すれば、経済が成長して将来世代を含む人々の生活がよくなるから、子や孫から盗んでいるとの指摘は当たらない」と主張します。
でも、そんなことをして、ちゃんと返せる見込みはあるのでしょうか。
国際決済銀行のジェイミー・カルアナ総裁は、「政府債務がまだ足りないと言うのは、無理がある。足りないのではなく、債務レベルが高すぎるのだ」と反論しています。
ハーバード大学のケネス・ロゴフ教授も、「金利が低下しているのは、投資家が金融危機や戦争などを怖れて、安全資産とされる国債を買っているからであり、実際にそういう事態になれば政府は借り入れを増やさなければならない。だからこそ今、政府債務を減らして備えておかねばならない」としています。
戦争や金融危機が今すぐ起こらないとしても、米国の財政問題を悪化させる大きな心配の種があります。その日が近づいているとされる米利上げです。
先述の『ナショナル・インタレスト』記事は米金利の上昇で、国債金利支払い額が近い将来に2倍になると仮定すると、「米政府の債務に対する金利払いの割合は(現在の8%から)29%に跳ね上がり、問題」だとします。
こうした状況を踏まえて上下院を制する共和党は、政府債務がこれ以上増えないような法的仕組みを立法化させる動きを見せています。
TPP(環太平洋パートナーシップ)推進では一心同体のオバマ大統領と共和党ですが、財政問題で再び対立が深まり、現在の「呉越同舟」が終わる日は近いかもしれません。