金価格とドルの関係 逆相関関係は続くのか?
米ドルが、その裏付けである金本位制の兌換(だかん)保証を失った1973年から現在に至るまで、一般的に金価格とドルは逆相関関係にあります。
ドルが強くなると金が売られ、ドルが弱くなると金が買われるのです。
直近では、6月下旬に米連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン議長が金市場に喰らわせた不意打ちで、金価格が上昇した例があります。それまで金市場では、「堅調な経済指標を受けて、FRBが利上げを急ぎ、ドルは強含みになるだろう」との認識のもとでプレーヤーが金を売っていたため、相場は下がっていました。
ところが、イエレン議長らが長期的な金利予測を引き下げたため、「FRBはゆっくり時間をかけて金利を上げていくつもりだ。ドルの上昇も、それにつられてゆっくりしたものになる」という見方が強まり、ドルが軟化する一方、金価格が上がったのです。
では、なぜ金とドルはこのような逆相関関係にあるのでしょうか。
それは金が、利息がつかないものの、長期的な価値の下落に強い「無国籍通貨」とも呼ばれる有事の際に安全な実物資産であるのに対し、ペーパーマネーのドルは株式や債券など利回りが良いリスク資産との正の相関性が強く、リスクが取られる際に買われやすいからです。
為替や株式・債券市場で不安心理が支配すると、金が買われ、株などがイケイケ相場になると、金は売られて安くなります。
ドルへの信認が下落すれば、投資マネーは安全な金に流れ、金が高くなるというわけです。
「金はドルの代替資産」「金は商品ではなく、一種の通貨だ」と言われるゆえんです。
ただし、この逆相関関係が常に当てはまるわけでもありません。近年はこの逆相関性が若干弱くなってきているとの、データに基づく指摘もあります。最終的な金相場は、儲かる商品に集中する投機マネーが、どのような思惑でどこに流れているかに左右されるのです。
現在の金価格と2015年下半期の予測
では、現在の金価格は、具体的にどのあたりの水準にあるのでしょうか。金は2011年9月に1オンス(31.1035グラム)あたり1923ドルの史上最高値をつけた後は冴えず、ここ数か月はその最高値から4割近く下げて1200ドル前後で推移し、6月26日現在で1173.20ドルと低迷中です。このような膠着状態では、ドル高が進む、地政学的な事態が市場を揺るがすなどの材料がない限り、プレーヤーが金取引に積極的に参加する雰囲気が出来上がりません。
英HSBCホールディングスの貴金属アナリスト、ハワード・ウェン氏はブルームバーグ通信のインタビューに対し、「金市場は、遊園地の揺れる船に乗っているような感覚です。レンジを抜ければ、両サイドに勢いのある投資家が入ってくる可能性があります。一部の投資家は、常に明確なトレンドに従うのを好む傾向があるのです」と語っています。
また、フューチャーパス・トレーディングのトレーダー、フランク・レシュ氏も、「価格がさらに高くなれば、金ファンドに戻ってくる投資家は増えるでしょう」と述べています。
ただ、米経済が2015年下半期に堅調な成長をすることが見込まれ、それを裏付ける米利上げが実施されれば、ドル高がさらに進み、金価格が大きく上昇することは考えにくい状況です。
逆に、米経済の成長のペースが落ち、利上げが先送りされるなどの事態になれば、上値は限定的であるものの、金相場は幾分上昇するでしょう。
いずれにせよ、中東・ウクライナ・南シナ海などで地政学的緊張が高まれば、金価格とドルの「表裏一体」関係は崩れるどころか、強まることが予想されます。安全資産としての潜在価値は、価格低迷の中でも揺るがないのです。
それと同時に、まだ重大な地政学的事態が発生する事態には至っていないため、ここ数か月の金相場は、「ドル高・金安」基調の中、米経済の指標とドルの為替レート次第だと言えるのではないでしょうか。