楽天参入から見る 通信競争の行く末を占う
2017年12月の楽天による携帯電話事業参入の発表は、業界を問わず驚きを以って伝えられました。
そして2018年4月に総務省からLTE(Long Term Evolution、通信規格のひとつ)割り当ての認可がおりたことにより、スケジュールによると2019年10月から楽天は正式に携帯電話事業に参入し、NTTドコモ・KDDI・ソフトバンクなどの既存キャリアと競合することになります。
なお、携帯電話業界における新規参入は、2005年のイー・モバイル以来14年振りとなります。
本コンテンツでは、今回の楽天の新規参入により携帯電話業界の見通しはどのようなものになるか、予想してみたいと思います。
携帯電話事業における楽天の狙い
2014年10月より、楽天は「楽天モバイル」という格安スマートフォンのサービスを提供しています。
しかし楽天モバイルは「仮想移動体通信事業者(MVNO、Mobile Virtual Network Operator)」であり自前の無線通信回線設備を持たず、NTTドコモが保有する無線通信回線設備の一部を借りて運営しているのです。
格安スマートフォンの分野ではDMMmobileやBIGLOBEなど数多くの競合がひしめいていますが、楽天モバイルは契約者数やシェア、セグメント別の業況などを見ても事業としては軌道に乗っているように思えます。
それにも関わらず、なぜ楽天は巨額の追加投資を行ってでも自前の無線通信回線設備を持ち「移動体通信事業者(MNO、Mobile Network Operator)」になろうとしているのでしょうか。
その答えは、楽天のMVNOとしての成功にあります。楽天モバイルではショッピングや楽天カードの利用により貯まる楽天スーパーポイントをスマートフォンの支払いに充当することを可能にすることで従来の楽天ユーザーの囲い込みを図り、それが140万人に達する楽天モバイルユーザーの獲得につながりました。
しかし、MVNOのままでは楽天ユーザーであることのメリットを生かすことができる各種サービスの提供範囲と、料金体系に柔軟性を持たせることに限界があることから、他の楽天が提供するサービスとのシナジー範囲を拡大し他キャリアでは実現が難しい楽天ならではの低料金で利用者の囲い込みを図るために、今回MNOとなることに踏み切ったものと考えられます。
既存キャリアにとっての楽天の脅威
今回の楽天の新規参入は、NTTドコモ・KDDI・ソフトバンクという既存大手のキャリアにとって少なからず脅威となるはずです。
その理由としては、楽天が同社の既存事業とのコラボレーションによる低価格を実現させることが可能である点です。
楽天はオンラインショップを機軸に多角的に事業を展開しており、そうした事業とのコラボレーションが利用者の囲い込みに有効であることはすでに実証済みです。また、携帯電話事業をプラットフォームに他の既存事業の新たな顧客開拓が可能となるわけですから、シナジー効果の拡大により携帯電話の利用料を多少安くしたとしても楽天グループ全体では十分に採算が可能なのです。
これは、楽天と比べて携帯電話事業とシナジー効果を図ることが可能な事業をほとんど持たない既存キャリアにとって、新規利用者の開拓が難しくなるばかりか低価格志向の世の中にあって既存利用者の剥落すら招くことが予想されます。
今後の携帯通信業界の見通し
低価格路線を推し進めることを明言している楽天の方針は、国際間比較でみた日本の携帯電話料金の高さについて警鐘を鳴らす国の思惑と合致しています。既存キャリアは、楽天という全く新しいタイプの新規参入者と競合しなければならないこと、国からも値下げ圧力が掛かっていることを考えると、遅かれ早かれ基本料金の値下げに動かざるを得なくなるでしょう。
つまり、売上高というトップラインが減るわけですから利益も先細るわけですので、全体の見通しとしては暗いといわざるを得ません。
しかしながら、既存キャリアがトップラインが細る中でも相応の利益が出せるように企業体質を改善すること、楽天が持つシナジー体質をも凌駕するようなイノベーティブな技術やサービスなどを開発できれば利用者にとっても大きなメリットですし、生まれ変わった業界として大きな期待をもつことができます。
まとめ
今般の楽天の携帯電話事業参入は、インフラ産業として良くも悪くも安定していた業界に大きな動きを起こしそうです。今後、既存キャリアがどのような巻き返しを図るかが注目です。