トランプ大統領の外交と各国の動き~首脳会談と電話会談を経て
トランプ大統領の誕生をめぐっては世界的に期待と不安が入り混じる状況が続いており、多くの主要国が米国との関係をどのよう維持、拡大していくかを模索する動きが始まっています。そんな中で、すでにいち早くトランプ大統領と会談を行う国も出始めており、実際に首脳会談を行ったケースも出ています。
首脳会談後ゴルフを行ったトランプ大統領と安倍首相
トランプ大統領が就任後、まず首脳会談を行ったのはEU離脱を決めた英国のメイ首相になりましたが、それについで実施されたのが、2月10日に実施された安倍総理との日米首脳会談となりました。
当初は麻生財務大臣の同席を米国側から求められたことから、通商、為替の問題で具体的な要求を突きつけられるのではないかとかなり危惧されましたが、実際の会談ではそうした具体的な事象に関する要求は出ず、会談後のゴルフで非常に親密な関係を構築できた安倍総理とトランプ大統領が大きくクローズアップされることとなりました。
但し、その後のメディアの報道では米国側が首脳会談後の声明にFTAの締結を視野に入れることを盛り込むよう要求したものの、日本側が難色を示したことから、今後継続的に協議するといった文言に替えられていることがわかっています。したがって、今後麻生大臣とペンス副大統領の実務的な会談上で、クルマを中心とした通商問題や為替に関して具体的な米国からの注文がつく可能性は依然残されており、すべての問題が解決していないことを示唆する状況となっています。
トランプ大統領と電話会談した国
トランプ大統領は、就任後多くの国と電話会談も実施しています。1月にはメキシコのペーニャ・ニエト大統領と2回、カナダのトルドー首相、イスラエルのネタニアフ首相、エジプトのシン大統領、インドのモディ首相、ドイツのメルケル首相、ロシアのプーチン大統領、フランスのオランド大統領、オーストラリアのターンブル首相、そして2月に入ってからは中国の習近平主席、トルコのエルドアン大統領などと電話会談を行っています。このうちカナダのトルドー首相とは隣国ということもあって首脳会談が2月に実施されています。
特に印象的だったのは、オーストラリアのターンブル首相との電話会談で、「豪国内の難民を米国が受け入れる」という両国の合意を批判している点です。その会談は予定時間を切り上げ、一方的に終わらせ、その後関係は解消したとされていますが、「今までで最悪の会談」と発言したことで、トランプ大統領らしさが表面化したケースとして注目されました。
また日本との首脳会談に先立って、中国の習近平国家主席との電話会談を実施し、1つの中国の原則を尊重する意向を伝え、日本だけと偏った関係にはならない旨を事前に先方に伝えたとも見られ、バランスのとれた動きを見せることとなりました。
全般的に各国首脳との会談は激しいやりとりになることはなかったようで、意外にまともなトランプ大統領の一面を覗かせることになったようです。しかし英国を除けば欧州主要各国のトランプ大統領に対する見方は総じて冷ややかであり、具体的に個別国との関係がどうなっていくかはまさにこれからの問題ということになりそうです。
トランプ大統領が中国を敵対視している理由
トランプ大統領は就任前から、貿易赤字のもっとも大きい中国の通商政策と為替政策と批判し、為替操作国であるとする厳しい見解も口にしていますが、この背景には保護貿易主義で貿易赤字を解消するとともに、それを対象国との強硬な交渉を実現することで歳入を増やし、その原資で減税やインフラ投資に利用しようとする大きな目論みがあることが見えてきます。
実際にトランプ政権で国家通商会議代表に指名されたカリフォルニア大学のピーター・ナヴァロ氏はトランプ大統領の選挙時の顧問として早い段階から貿易赤字を解消し、そこから新たな歳入を作り出し、向こう10年で240兆円ほどの原資を生み出すことを見込むレポートを公開しており、単純にトランプ大統領の個人的感情だけではなく政権の戦略として通商政策から歳入を増やす青写真を描いていることがわかります。
したがって具体的な中国との交渉では“得るもの”、“譲るもの”が決まっていくことが考えられ、一元的に中国を敵視した政策になるかどうかはここからのこの政権の動きを見てみないとわからない部分も残されています。大統領就任前に台湾の蔡英文総統と電話会談をして、あえて中国を怒らせてみせたのも、交渉を優位に持ち込むための戦術の可能性もあり、今後の動向が注目されます。
但し4月に米国が中国を為替操作国と認定した場合には、両国関係に影響が出ることは間違いなく、このあたりでもトランプ政権がどのように対応するのかに関心が集まります。