消費税10%時の2つの負担軽減案、「還付金制度」と「軽減税率」の違いとは?
周知の通り、安倍政権はアベノミクスという政策を掲げ、景気回復によるデフレからの脱却に力を入れてきました。それに呼応し、黒田総裁率いる日本銀行も異次元レベルの大胆な金融緩和を進めています。
アベノミクスのスタートとともに円安が進んだこともあって、外需系を中心に日本企業の業績回復も顕著になり、2015年の春闘では待望のベースアップも実現しました。とはいえ、まだまだ世間では景気回復を実感できない人たちのほうが多いようです。
朝日新聞が2015年4月下旬、日本経済新聞が同年6月下旬に実施した世論調査で、どちらにおいても全体の75%の人たちが「景気回復を実感していない」と回答していました。一方で9月の全国消費者物価指数は原油安の影響もあって前年同月比で0.1%下落し、「2%の物価上昇をめざす」という日銀の目標からはかなりかい離しています。
消費税10%の目的
そのように微妙な状況下にもかかわらず、着実に迫ってきているのが消費増税です。
2014年4月1日、17年ぶりに消費税が5%から8%へと引き上げられましたが、さらに2017年4月1日からは経済情勢にかかわらず、必ず10%にアップすることが決定しています。
その目的は、高齢化社会の進行を踏まえて社会保障の安定財源の確保を図ること。そして徴収する側にとって、消費税には景気の浮き沈みにかかわらず比較的安定した税収を確保できるという大きなメリットがあります。たとえ引き上げ後に景気が悪くなったとしても、着実に税収増を見込めるわけです。
とはいうものの、それでは景気回復を果たそうとしているアベノミクスと大きく矛盾してしまうことになりますし、過去の引き上げでも経済への影響は甚大でした。実際、17年前も増税後に日本経済は失速しましたし、昨年も4月以降の景気の落ち込みが深刻だったことから、10%への再引き上げのタイミングを当初の予定よりも18カ月間延期しています。
特別措置法「還付金制度」と「軽減税率」
消費税は所得税と違って万人に同じ税率が適用されるため、特に低所得者層へのダメージが心配されています。そこで、悪影響を少しでも軽減するために導入が検討されているのが特別措置です。
『還付金制度』
まず、国税を司る財務省が検討を進めてきたのが「還付金制度」です。
「酒類を除く飲食料品(外食も含む)」と対象がかなり広いことは歓迎できるのですが、手続きが面倒なことに加えて還付金の上限金額がかなり低いことから、さまざまな方面から批判が相次ぎました。
2016年1月以降マイナンバー(社会保障・税番号制度)がスタートしておりますが、もしも「還付金制度」が採用されると、消費者は該当する飲食料品を購入するたびに同番号が記載されたマイナンバーカードを専用端末にかざす必要が生じます。そのうえで、いったんは10%の消費税を負担しなければなりません。
するとその記録が政府のデータベースに蓄積されるのですが、消費者自身がインターネットを通じて申請を行わなければ還付金を受け取ることはできません。しかも、還付金の上限は1人当たり年間4000円にすぎないのです。
『軽減税率』
「還付金制度」の代案として検討されているのが「軽減税率」の導入です。
こちらは単純明快で、飲食料品などの特定対象の税率を10%よりも低くするもので、消費者は購入時点で軽減メリットを受けられます。「還付金制度」よりも対象は狭くなりそうですが、日本よりも消費税率が高い欧州各国においても、同様の制度が採用されています。
この「軽減税率」についても、「軽減対象の商品とそうでない商品が入り乱れている店側の対応が複雑になる」とか、「高所得者層も軽減税率を享受できることになり、不公平感が是正されない」といった批判が出ています。
今後の行方は
「還付金制度」については案の定「これではとても景気へのダメージを軽減できない」との指摘が相次いでいます。また、財務省にとっては間違いなく「軽減税率」は「還付金制度」よりも税収が減りますから、極力導入したくないのが本音かもしれません。
2017年の制度開始までにどのような結論が出るか、今後の動きに注目していきましょう。