量子コンピューターでどう世界は変わるのか?
グーグル社は2019年10月、イギリスの学術誌『ネイチャー』に論文を発表し、これまでのコンピューターでは1万年かかるとされた計算を、同社が開発した量子コンピューターを用いて僅か3分20秒(200秒)で解くことに成功したと発表しました。日本が縄文時代だった頃から計算を始めてから現在までかかるような計算を、インスタントラーメンを作る程度の時間で処理してしまったのです。
このグーグル社の発表に対しては、同じく量子コンピューターの開発で競うライバル関係にあるIBMからは「現実的ではない」「実用性がない」などの批判の声が上がっています。
グーグル社の開発する量子コンピューターが偉業を成し遂げたのか、あるいは現実的ではない実用性に乏しい代物なのかの議論はさておき、量子コンピューターが登場することで世界がどのように変わるのかについて解説します。
量子コンピューターが”スグに”変えるとされる世界
グーグル社の発表からも分かる通り、量子コンピューターの特徴とは計算処理能力が極めて速いということです。1万年が200秒になっているのですから、現代の一般的なコンピューターとは比較できないほどの差があることが分かります。
計算処理能力が高まることが直接的に影響する分野の例としては、天気予報が挙げられます。天気予報はこれまでにもコンピューターの活用によって精度が高められてきましたが、収集したデータを全て解析して予報を出すまでには膨大な時間を要しており、コンピューターの処理能力が追い付いていませんでした。
また、医薬品の開発においても量子コンピューターの活用が期待されています。新薬開発の分野では、あらゆる効果と副作用の可能性について数式を用いた検証が行われ、最適解として示されてものを実際に試作品として製造して臨床試験が行われます。つまり、どれだけ多くのパターンについて計算による検証を行うことができるのかが、新薬開発の分野では非常に重要となります。
このように量子コンピューターの登場によって、人々は自然災害の恐怖から逃れることができ、難病とされる伝染病からも解放されることが期待されています。
量子コンピューターが世界平和をもたらすのか?
コンピューター技術が急激に進化してきた理由のひとつは、間違いなく戦争によるものです。砲台から発射された砲弾が、どのように飛び、風や雨の影響を受けてどのように軌道を変えるのか、そしていかに敵へのダメージを最大にするのかを計算するためにコンピューターの処理速度が高められてきました。
また近年では、兵器や戦闘機を必要としないサイバー攻撃が、戦争の大きなウェイトを占めるようになってきているため、さらに直接的にコンピューターの処理の速さが求められるようになってきています。いわゆるハッキング攻撃やDoS攻撃を仕掛けることで相手勢力のコンピューターの機能を無効化することを可能にします。
さらにテロ事件が発生した際には、事件発生現場の周辺にある全ての監視カメラに映る人々の顔を一瞬で認識して、怪しい行動をとっている人物を即座に絞り込むとともに、リアルタイムの映像から容疑者となった人物の現在位置までも瞬時に見つけ出すことが可能になるでしょう。
こうした量子コンピューターを用いた戦略の導入によって、世界は平和になるかもしれないと期待される一方では、量子コンピューターを持つ国や企業の力が大きくなりすぎるため、世界のパワーバランスが崩れることで現在よりも混とんとした世の中になることも不安視されています。
コンピューターが人類を超えるシンギュラリティ
量子コンピューターの登場によって現実味を帯びてくるのが、シンギュラリティ(技術的特異点)と呼ばれる瞬間です。シンギュラリティとは、未来学者のレイ・カーツワイルが提唱したもので、コンピューターが人工知能によって自ら能力を高めて独自の進化を進めていくようになるだろうという説です。
カーツワイルの理論によると、シンギュラリティが起こるのは2045年で、コンピューターの進化に対して人類が手出しをすることができない世界となってしまうと予想しているのです。
量子コンピューターと人工知能がフル稼働するシンギュラリティの世界では、天気予報も新薬開発も全ての答えがコンピューターによってもたらされます。また犯罪者の特定もコンピューターが行い、容疑者の持つクレジットカードや銀行口座を即座に凍結してしまうかもしれません。これらの活動に対して人類の頭脳は追いつけませんので、全てがコンピューターの指示のもとに行われます。
このようなシンギュラリティの世界の実現については、生活が便利になることを称賛する声がある一方で、コンピューターという新たな支配者が登場することを懸念する意見も数多くあります。
量子コンピューターで変わる世界のまとめ
人々を感動させることができる映画、思わず買ってしまう商品、美味しいと感じる味、心地よいと感じる音楽や温度、これらの全てをコンピューターが計算して答えを導き出す世界の入口に私たちは立っています。
量子コンピューターによって生活の利便性が向上することは間違いありませんが、その先に待っている世界に対しては不安を感じる人も多いのではないでしょうか。
スマートフォンが登場した当初、いつでもどこでも情報を検索できることやテキストによって連絡ができることを喜ぶ声が多かったものの、今となってはスマートフォン無しには生活が成り立たず、窮屈な生活スタイルになったと嘆く人がいるように、量子コンピューターの創り出す未来にも同じような現象が起こるのかもしれません。
どのような世界が訪れるのかは量子コンピューターのみぞ知るといったところでしょうか。