平成30年度税制改正大綱における事業承継税制の改正(前編)
【2】 事業承継税制の過去の改正
事業承継税制の創設以来、その利用件数が増えないことを問題視されていました。
この原因は、納税猶予制度の手続きが煩雑であること、納税猶予制度そのものが難解であることが挙げられていました。実務上、認定申請書を作成するために顧問税理士に依頼することになりますが、税理士はその作成手続きに多大な作業時間や人件費を必要とするものであるため、中小企業が適用することを望んだとしても、顧問税理士が顧客からの依頼を断ってしまうため、適用申請の手続きに入ることができない中小企業がたくさん存在していました。
一歩進んで適用申請することになった段階でも、納税猶予制度の適用を受けるためには、厳格な適用要件を満たした上で、経済産業大臣の認定を受ける必要がありました。この適用要件が難解過ぎて理解できないと声高に叫ぶ税理士も多かったように思われます。
また、認定を受けた後にも、この制度の適用後5年間は毎年経済産業大臣に対して継続報告書を提出するとともに、所轄税務署長に対して継続届出書を提出する必要がありました。その上、5年経過後においても、所轄税務署長に対して3年毎に継続届出書を提出する必要がありました。その期間においても、雇用を5年間で平均8割を維持することが困難と感じられることや、納税猶予が取り消された場合のリスクが極めて大きい、M&Aという経営戦略が封じられることは酷だなどと誤解されたことから、いわゆる適用の打ち切りリスクの伴う制度として、中小企業経営者から敬遠されていました。
このような状況であったため、納税猶予制度は、その認定件数が増えなかったと考えられます。
そこで、平成25年度改正では、多くの中小企業に納税猶予制度の利用を促進するため、様々な要件が緩和されるとともに、使い勝手によい制度とするため、手続きの簡素化が行われました。主たる改正点は次の通りでした。
- 先代経営者の親族に限定されていた後継者の要件が廃止され、親族ではない者についても適用できることとなりました。
- 先代経営者は事業承継と同時に役員を退任するものとされていた要件が廃止され、代表権を外せば足り、役員として留任することができることとなりました(代表取締役から平取締役になります。)。
- 雇用確保について、5年間にわたって継続して、常時使用従業員数の雇用の8割以上を確保するものとされていた要件が廃止され、5年間をトータルで平均して、雇用の8割以上を確保することとなりました。
- 経済産業大臣による事前確認制度が廃止され、手続きの簡素化が図られました。
しかしながら、この改正でも十分な成果が出なかったことから、平成29年には、人手不足を踏まえた雇用条件の見直しと、事業承継の早期取り組みを促すための優遇強化の観点から、更なる改正が行われました。主たる改正点は次の通りでした。
- 雇用確保条件の計算において、常時使用従業員数に100分の80を乗じて計算した数に1人に満たない端数があるときは切り上げることとされていたため、2人が1人、3人が2人、4人が3人に減少した場合は、条件を満たさなくなって認定が取り消しになるという問題点がありましたが、1人に満たない端数があるときは切り捨てることとなったため、これらのケースであっても条件を満たすことができるようになりました。
- 相続時精算課税制度に係る贈与を、贈与税の納税猶予制度の適用対象に加えることとされました。これによって、認定取り消しになる場合に贈与税を一括納付しなければいけない事態を回避することが可能となりました(株価が2,500万円を超えた部分に対して20%を乗じた税額のみ負担すればよいため。)。