FAANG投資からの脱却へ 「バリュー株運用」を徹底解説
~投資家の非合理性~
下記はある架空銘柄の株価、一株当たり利益、PERの様子を示しています。現在の株価は300円、一株当たり利益は50円、PERは6倍と極めて割安になっています(典型的なバリュー銘柄)。現在は景気後退局面の瀬戸際におり、投資家は将来の景気悪化に対して徐々に恐怖を感じ始めています。
この企業の営む事業は極めて景気敏感であり、景気後退に陥れば売上、利益が減少するのはほぼ確実な情勢です。例えば、景気後退に陥った場合には、一株当たり利益は20円程度まで落ち込む可能性があり、そうなると株価300円でもPERは15倍程度であり、実は見た目ほど割安ではないと判断することも可能です。現在のPER6倍は割安ですが、「合理的な投資家」はこのリスクシナリオを予め織り込んでいるだけ、と考えることも可能です。株式市場は気が早いため、常に先行きの予想を織り込もうとします。
但し、投資家の将来予想に基づいたこの程度のリスクシナリオは序の口です。一旦投資家の恐怖心に火が付いてしまうと、このような「リスクシナリオ作り」に際限が効かなくなることがあるからです。
例えば、投資家がより深刻な景気後退リスクを認識したケースを考えてみましょう。この場合には、一株当たり利益は10円、場合によっては赤字になる可能性も考えられます。恐怖に駆られた投資家は更に赤字が長期化するリスクすら織り込む可能性もあります。この企業の財務はあまり強固ではないため、場合によっては存続可能性への懸念(倒産リスク)に発展することも珍しくありません。そうなってくると、株価は200円、場合によっては更に下がるかも知れません。まさに歯止めが利かない悲観の連鎖です。特に景気後退局面の最中のマスコミ報道は悲観一色に染まることが多く、後から振り返れば過剰な悲観シナリオでもその瞬間には極めて強い説得力を持ちます。投資家が合理的に振舞おうとすればするほど、底なしの悲観シナリオにはまっていきます。
これこそが投資家の持つ「非合理性」です。
株式は安値で買えば儲かることが多く、多くの投資家も平常時には「是非そうしたい!」と願っているはずですが、実際にはその逆をやります。多くの投資家は株式を悲観の最中に手放す傾向があり、だからこそ株式は暴落するのです。この架空銘柄のケースでは、今回の景気後退局面における一株当たり利益は結局30円で着地しています。50円から30円への減益であり、4割減益という非常に厳しい結果となっています。
但し、株価は400円へ上昇しています。投資家の将来予想が実態以上の過剰悲観となっており、やはり株式は割安だったのです。結果として、非合理的な行動を取った投資家(景気後退を予期して株を売った人)から、冷静さを逸早く取り戻した投資家(株価は割安と判断し、勇気を振り絞って投資した人)へ富が移転することになります。この現象がバリュー株効果のもう一つの正体だと思います。
(図表2)ある架空銘柄の例
まとめ
- バリュー株とは各種指標(PER、PBRなど)が割安となっている株式を総称したもの。
- バリュー株は、企業の売上/利益等の変動が大きく、景気後退や外部環境(為替・原油価格など)の影響を受けやすい。財務も相対的に弱いことが多く、厳しい景気後退局面を迎える際には、倒産リスクが懸念されるような場面もありえる。また減配リスクも相対的には高く、投資家を不安にさせるような現象が起こりやすい銘柄群と言える。
- バリュー株は、長期で投資すると良好なリターンを上げやすい傾向が知られている(バリュー株効果)。米国株のケースでは、このような現象が過去100年近い期間で観察されている。このような高いリターンの背景として、相対的に高い投資リスクに加えて(ハイリスク・ハイリターン)、投資家の非合理的な行動が主たる要因として考えられる。
- 金融市場における投資家は、しばしば非合理的な行動を取ることが知られている。歴史を振り返れば、様々なバブルが生成・崩壊を繰り返しており、投資家が過剰に楽観的になったり、過剰に悲観的になることを示している。過剰に悲観的になった投資家は、現実にはあり得ないような悲観シナリオに基づき、株式を売却してしまうことがあり、その結果として株式は非常に割安な水準まで売り込まれる現象が起きる(バリュー株)。その後投資家の過剰悲観が修正されていく過程において、バリュー株に水準訂正が発生し、それがバリュー株効果として観察される。