1.はじめに
2019年2月、アセットマネジメントの世界で数十年にわたり「債券王」の名で知られたビル・グロス氏(75歳)が、勤務するJanus Henderson(以下、Janus社)を3月1日付で退職し、業界から引退することが発表されました。

ファンドマネージャーの進退がここまで世界中を驚かせたのは、2014年にグロス氏が自ら設立したPacific Investment Management Company(以下、PIMCO社)からJanus社に移籍したとき以来でしょう。

今後、グロス氏は慈善財団や自身の財産の運用に専念するようです。
そこで本コンテンツではこれまでのビル・グロス氏を振り返り、彼がアセットマネジメント業界に残した大きな功績を讃えたいと思います。


2.PIMCO社での栄光
1944年生まれ。デューク大学卒業後、3年間の海軍兵役を経てカリフォルニア大学ロサンゼルス校でMBAを取得したグロス氏は、1971年にPIMCO社を共同設立しました。

ここから、グロス氏の債券ファンドマネージャーとしてのキャリアが本格的に始まることになります。

債券運用におけるグロス氏のスタイルはアクティブ運用であり、ストラテジーとしては「トータル・リターン戦略」が最も知られています。トータルリターン戦略は現在でもPIMCO社における主要戦略のひとつであり、日本でもPIMCO社により公募投資信託や年金基金の運用などで幅広く商品が提供されています

トータル・リターン戦略とは、アクティブ運用にも関わらず投資する債券価格のボラティリティ(変動幅)をインデックス並みに抑えるように、かつインカムゲイン(利息収入)を最大化できるようにポートフォリオをコントロールすることで、キャピタルゲイン(ポートフォリオの値上がり益)とインカムゲインを最大化する戦略です。

トータル・リターン戦略によって運用するPIMCO社の旗艦ファンド「PIMCOトータル・リターン・ファンド」は、ピーク時で2929億ドルとアメリカで最大規模となり、年率7パーセントを超えるリターンをコンスタントにあげていた時期がありました。
また、債券市場や経済環境に対するグロス氏の独特な分析は常にマーケット関係者の耳目を集め、時としてグロス氏の発言そのものがマーケットを動かすインパクトを与えることもあったのです。

こうして、グロス氏は「債券王」「債券運用のカリスマ」などの称号をほしいままにし、PIMCO社を世界有数の、債券運用としては世界最大級の資産運用会社に育て上げていったのです。


3.その後の黄昏
2014年9月、グロス氏が40年以上在籍したPIMCO社を退職しJanus社に移籍するというニュースは、アセットマネジメントの世界を驚かせました。Janus社への移籍理由は色々と語られていますが、総論としては運用方針などをめぐるPIMCO社経営陣との意見の相違のようです。

Janus社では、「ジャナス・ヘンダーソン・グローバル・アンコンストレインド・ボンド・ファンド」のファンドマネージャーの地位を引き継ぐことになります。アンコンストレインドとは、ベンチマークなどの制約を少なくした自由度の高い運用戦略のことであり、アクティブ運用の第一人者であるグロス氏に、その手腕の発揮が期待されました。

しかし、2018年末まではベンチマークをアウトパフォームしておりアクティブファンドの面目は保てていたものの、世界的な低金利による債券の運用環境悪化もあり、往年とはほど遠いパフォーマンスとなり、ファンドからの資金流出に苦しむことになります。

なかでも、2018年にアメリカ10年債利回りとドイツ10年債利回りのスプレッド縮小を見込んだ戦略は完全に裏目となりました。この結果、グロス氏が運用するファンドのパフォーマンスは、同様の債券アクティブファンドの平均的なパフォーマンスを大きく下回るものとなりました。

多くのメディアが、グロス氏の運用するファンドの不振ぶりを悲観的に報道したことは記憶に新しいところです。そして、ほどなくしてJanus社からグロス氏の引退が発表されることになります。


4.まとめ
時代を築いた偉大なファンドマネージャーの引退は惜しまれるところですが、マーケットはそれにお構いなしに動き続けます。そして、債券マーケットはますます先行きの見通しが立てづらくなっています。
そのような中で、新たな債券王としての期待が高いジェフリー・ガントラック氏がどのような活躍を見せてくれるか、期待したいところです。