世界の半導体製造にウクライナ侵攻が影響する理由とは?
ロシアのウクライナ侵攻により、世界の半導体製造に大きな影響を与えると言われています。
なぜウクライナ侵攻が半導体製造に影響を与えるのでしょうか?
その理由について解説します。
ウクライナ侵攻により世界的な半導体不足へ
2022年2月末にロシアはウクライナに侵攻。兵器によって各地を攻撃し、ウクライナでは工場や物流の停止を余儀なくされています。
一方、侵攻しているロシアに対しては、多くの国が経済制裁に参加し、ロシア産の原料や製品の輸入を禁止。
ロシア側も経済制裁への報復措置から、希ガスや希少金属などの供給を制限するのではないかとの懸念が広がるなど、ロシアのウクライナ侵攻が、半導体生産のサプライチェーンを大きく揺るがしています。
ウクライナは希ガスの一大生産地
ウクライナが主な供給国である、ネオン(Ne)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)といった希ガスは、半導体に回路を書く「露光」という製造工程に欠かせないものです。
これらの希ガスは、大気中に100分の1程度含まれる成分を分留することにより高い純度で抽出することが可能です。しかし希ガスを大気中からの抽出することは極めて非効率であることから、ロシアが精製する鉄鋼の副産物として発生したガスを、ウクライナで半導体に適したものに精製をして各地に送っています。
ネオンについては、ウクライナ産が世界の70%を占めており、特にアメリカでは半導体製造用の9割超がウクライナ産と依存度が高くなっています。侵攻の影響により、ウクライナのオデッサに本社を置くCryoin社と、マリウポリに本社を置くIngasの2社は侵攻の影響により、ネオンの製造を停止してしまいました。
ただし、日本では2014年のクリミア併合時に希ガスの供給不足に陥った経験から、調達先の分散をすでに進めており、ロシア・ウクライナ産のシェアは6%とさほど大きくはありません。
ロシアはパラジウムのシェアが世界の4割
ロシアは地下に希少資源が埋蔵された地層が広がり、白金系元素という金属や、希少金属が豊富です。特に白金系元素であるパラジウムの生産量は、2020年で82トンと世界の約4割のシェアを誇ります。
ロシアは経済制裁の報復措置として、このパラジウムの供給をストップするのではないかという懸念が世界に広がり、3月上旬に一時1トロイオンスあたり、史上最高値となる3,425ドルまで上昇。これは、2021年度末と比べて8割高い水準でした。その後は、利益確定売りによってウクライナ侵攻以前の水準に下落したものの、供給不安自体が無くなっているわけではありません。
パラジウムは半導体製造には欠かせない金属であることから、日本企業においても代替の調達先を見つける動きが加速しています。
遠のく供給不足
新型コロナウィルスの影響による景気の停滞からアメリカと中国を筆頭に世界の経済は急回復基調にあります。しかしその反面、急速に半導体の需要が高まり、供給不足や入荷の遅れが、製造業の業績回復の足かせとなっています。
こうした半導体の供給不足の問題は、2022年半ばには解消すると考えられていましたが、ロシアのウクライナ侵攻の影響により、さらに半年遅れるとの見方が増えています。
まとめ
ロシアとウクライナはいずれも半導体製造に必要な希ガスや希少金属などの資源供給国であることから、ロシアによるウクライナ侵攻は、半導体生産のサプライチェーンに大きく影を落としています。
現在半導体に関連する企業は、代替となる調達先を見つけることに奔走していますが、従来と同等の供給を確保できるかは不透明です。
今後は、1つの資源国に依存することのリスクから、ウクライナ侵攻が収束した後も各企業が複数の調達先に分散する動きが加速していくでしょう。