過去の局面から学ぶ テーパリング後の新興国通貨の動きを解説
FRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長は、次回の会合がある11月にもテーパリングの開始を決定しうるとの見解を示しています。また、2022年に利上げを開始する方向に当局者らが傾きつつあることを明らかにしています。
これらの報道を受けて、「新興国は持ちこたえることができるのか」との心配の声も聞かれます。というのも、2013年のFRBのバーナンキ議長の量的緩和縮小の証言によって金融市場が混乱した経験があるからです。果たして、今回のテーパリングでは新興国通貨はどうなるのでしょうか。
テーパリングとは?
テーパリングとは、英語の「tapering=先細り」のことで、量的緩和策による金融資産の買い入れを徐々に減らしていくこと意味します。国債などの買い入れが減るとお金の流通量が減るので基本的に長期金利が上昇します。
アメリカの金利が高くなれば、あえてリスクの高い新興国の通貨で運用する必要はなくなるため、新興国の通貨は売られ、新興国通貨の価値が下落します。冒頭で説明した2013年の時は、バーナンキ議長が事前の声明文では量的緩和は時期尚早と言っていたのに、いきなり、量的緩和の縮小について言及したため、金融市場が混乱しました。そのことから「バーナンキショック」と言われています。
今回のテーパリングで新興国通貨はどうなるか?
バーナンキショックの時は、 金融市場は混乱し、アメリカの株価も新興国通貨も急落しました。その後、世界中の株価もこの影響を受けて下落しました。既に説明したとおり、アメリカの金利が高くなれば、新興国通貨は下落するリスクがあるのは確かです。そのため、新興国が何もしなければ新興国通貨は下落するでしょう。
ただ、今回は、バーナンキショックの時と異なり、パウエル議長は早い段階から金融緩和縮小について言及しており、新興国も外貨準備高を増やすなど十分に警戒しています。コロナ禍も収まりつつあるため、2022年以降は、新興国の経済の回復も見込まれます。
一方、懸念されるのは、新型コロナによる大規模な財政支出問題です。どの国も経済支援のための財政支出をしたため、財政は厳しい状態です。特に観光業を主な産業にしている新興国は経済に大きなダメージを受けました。
日本経済新聞(2021年10月22日)によると、トルコやウクライナでは、外貨準備が脆弱で、既にトルコリラは、史上最安値を更新しているとこのことです。本来であれば金利を引き上げるべきところではありますが、10月21日トルコ中央銀行は、政策金利を18%から16%に引き下げています。そのため、トルコリラは、ますます下落することが予想されます。
このように、今回のテーパリングでは、特殊要因が複雑に絡んでいるため、新興国という括りでは判断できず、個々の国の状況によって異なってくると考えられます。資源国などで金利を引き上げられるだけの体力がある国は通貨の下落は回避できると思いますが、観光産業などを中心にしていて体力がない国は、通貨が暴落するリスクがあります。
まとめ
今回は、アメリカのテーパリング後の新興国通貨の動きについて解説してきました。
結論としては、今回は、パウエル議長が金融緩和について十分なアナウンスを行ってきているので、前回とは事情が異なり、2013年のバーナンキショックのような、新興国通貨の下落が一斉に起こる可能性は低いと考えられます。
しかし、コロナの影響もあって、全ての新興国で十分な対策が取れていると限らないため、通貨や株価が下落する国もあるのではないかと思います。したがって、12月以降は、新興国の通貨や株価の動きには十分注意をしてください。