半沢直樹で注目された「TOB」 ここ5年で起きた注目TOBを解説
銀行マンである主人公の活躍や苦悩を描く人気TVドラマ「半沢直樹」では、シナリオの重要な要素として株式公開買い付けのTOBが描かれました。
「電脳雑技集団」という名の大手IT企業が、新興企業である「スパイラル」の買収のためにTOBを仕掛け、そこに助け舟としてホワイトナイト役で「フォックス」が登場するという流れでストーリーが展開しました。
もちろん、このようなTOBはドラマの中だけの話ではなく、現実世界でも実際に何度も行われてきたものです。
過去5年を振り返って日本の株式市場で繰り広げられた注目のTOBを解説します。
そもそもTOBって何?
TOBとは株式公開買い付け(Take Over Bid)の略称で、上場している企業の株式を、事前に期間・株数・価格を提示したうえで買い付けることです。
実際にTOBが行われる経緯はさまざまですが、関連会社や子会社に対して支配権を高めたい企業や、敵対企業を買収したい企業が、相手企業の株を買い集める手段としてTOBが用いられることが多いです。
TOB先の企業が友好的にTOBを受け入れていると「友好的TOB」と呼び、TOBに対して反発している場合には「敵対的TOB」と呼ばれます。半沢直樹で描かれたのは後者です。
敵対的TOBが行われることへの対抗手段としては、やはりドラマの中でも試みられたように、新株を発行してTOBによる持株比率を下げたり、有効的な第3者の企業(ホワイトナイト)に買収してもらう方法などがあります。
伊藤忠商事によるデサントの敵対的TOB
2019年3月に総合商社である伊藤忠商事はスポーツウェア大手のデサントにTOBを成立させました。
元々伊藤忠商事とデサントは1964年にゴルフウェアの共同販売をし、その後も伊藤忠商事はデサントに対して資本参加し1994年からは伊藤忠商事出身者が社長を務めました。
しかし、2013年に行われた取締役会で伊藤忠商事出身の社長の退任と、デサント出身者が社長に就任することが決まりました。このとき、伊藤商事サイドには事前連絡がなく不信感を募らせました。
その結果、伊藤忠商事はデサントに対して経営権をより多く保有したいと考え、2018年から伊藤忠商事による株式の買い増しが行われ、2019年3月15日にTOB成立を発表しました。
伊藤忠商事はデサント株を40%保有することに成功し、重要事項の株主総会で拒否権を持つことになりました。
この事例は国内初の大企業同士による敵対的TOBの成立事例です。
X TechによるエキサイトのTOB
2018年10月ネット関連事業を手掛ける新規企業のX Techは、1997年に設立されたネット業界では老舗のエキサイトをTOBを成立させました。
当時エキサイトは3期連続の赤字と業績不振に陥っていました。X Techはこのような状態になっているエキサイトを完全子会社化し経営再建を目指しました。
エキサイトの経営者はX TechによるTOBに関して前向きで、手続きも円滑に進み友好的TOBとして成立しました。
その結果、3期連続の赤字体質から脱却し、半期で営業利益・経営利益ともに過去最高を更新しました。
プレスリリースで新規事業領域の着手・従業員の労働生産性の向上・コストの見直し・抜擢人事の実施が掲げられ、これらに少しずつ変化を加えていった結果、エキサイトは再び黒字利益をあげることに成功しました。
こちらは友好的TOBの成功事例であると言えます。
前田建設による前田道路のTOB
親子上場の関係にあった前田建設と前田道路は2020年春、TOBによって注目を集めました。
TOBを敵対的と捉えた前田道路は、公開買い付けとタイミングを合わせる形で特別配当を実施し、企業の資産を株主へと放出する形で対抗しました。
前田道路による焼土作戦とも言える手段が講じられた後、TOBが成立して前田建設は「道路」の連結子会社化に成功しました。
TOBにかかる資金は、銀行からの借り入れによって調達されたため、企業価値を下げられた前田道路の子会社化が当面、前田建設の資金繰りを圧迫しそうです。
半沢直樹で注目された「TOB」の過去5年の事例まとめ
友好的か敵対的かによって内容が大きく異なるTOBは、買収する側とされる側の思惑が錯綜し、現実世界においてもドラマのような状況が繰り広げられてきました。
また、経済の先行きに不透明感が高まるなか、今後もさまざまな形でTOBが実施されることでしょう。
敵対的TOBを伝えるニュースは、ワイドショー的なエンターテインメントとして楽しむにも十分な素材ではありますが、個人投資家にとっては株価が大きく動き、収益を得ることができる局面となります。
突発的に発生するTOBに狙いを定めて、収益の機会を狙ってみてはいかがでしょうか。