退職金課税優遇に大きな見直し機運 そのポイントを解説する
6月30日、首相の諮問機関である政府税制調査会は、中長期的な税制のあり方に関する答申を岸田首相に提出しました。その中で特に注目を集めたのが「通勤手当」と「退職金」に対する課税を検討してみては?という提言、いわゆる「サラリーマン増税」です。
サラリーマン増税に関する報道が発表されて以降、ネット上で批判が相次いだため、7月25日、自民党の宮沢税調会長は「サラリーマン増税について、議論したことは一度もないし、頭の隅にもない」と否定するコメントを出すなど、火消しに追われることになりました。
確かに今回の答申は、あくまでも「検討してはどうか?」という内容が独り歩きしてしまいましたが、政府の方針次第では再度議論になる可能性が無いとは言えません。
今回は実行されると特に影響が大きいと思われる、「退職金課税優遇の見直し」の概要について解説します。
退職金の優遇とは
所得を得ると所得税が課税されますが、所得に応じて段階的に高くなる超過累進税率という仕組みを採用しています。そのためその年にまとまった退職金を受け取ると、当年の所得が大きくなるため高い所得税率が適用され、多くの税金を支払わなければなりません。
しかし退職金は、「従業員の退職後の生活を支える」「従業員の功労をねぎらう」という観点から、「分離課税」「退職所得控除」「2分の1課税」という大きな3つの税制優遇が用意されています。各税制優遇について紹介します。
分離課税
所得税は不動産所得や給与所得といったさまざまな所得を合計した金額に税率を乗じて計算します(一部合計できない所得もあります)。仮にその年に給与を受け取り、さらに退職金も受け取った場合、給与所得に退職金を上乗せした金額に税率がかかってしまい所得税がさらに高額になってしまいます。
しかし退職金は分離課税のため、他の所得とは区分して、退職所得だけで所得税を計算することができます。
退職所得控除
退職金は以下のような大きな所得控除が用意されています。
例えば勤続年数25年、退職金2,000万円受け取った場合の退職所得控除額は次のように計算します。
2分の1課税
退職金から退職所得控除を控除したあとの金額の2分の1を課税対象とするルールのことです。
上記の計算例を引用すると、退職所得控除が1,150万円のため、退職金の2,000万円から1,150万円を差し引いた金額は850万円。この2分の1にあたる425万円が退職所得として課税対象となります。
なお、この場合の最終的な所得税額は42万2,500円になります。
仮に退職金課税優遇が見直されたどうなる?
退職金課税の見直しの内容は、勤続年数1年あたりの控除額を一律40万円にするというものでした。つまり20年超勤務した場合、「800万円+70万円×(勤続年数-20年)」という部分をなくすというものです。
仮にこのケースで勤続年数25年、退職金2,000万円を受け取ったらどうなるのでしょうか?
課税対象となる金額も1,000万円×1/2の500万円に増加します。
なお、この場合の最終的な所得税額は、57万2,500円になります。
仮に退職金課税優遇がなくなると、今回紹介した事例のように受け取った退職金は同じ2,000万円であるにもかかわらず、所得税だけで15万円の負担増となってしまうようなことが起こるのです。
退職金額が高額な場合は税率も高くなるため、さらに影響は大きくなるでしょう。
iDeCoや小規模企業共済の受け取り額にも影響
iDeCoや小規模企業共済も一括で受け取った場合は、退職所得にあたります。退職金課税優遇がなくなるとこれらの手取り額も減少する可能性があります。
まとめ
話題になっていた「通勤手当」と「退職金」に対する課税、いわゆる「サラリーマン増税」は、世論の反発も大きく、すぐに始まる可能性は低いようです。しかし政府の中では、サラリーマンは税制面で優遇されているという認識があり、議論が再燃する可能性は十分考えられます。
さまざまな面で増税機運が高まっているため、資産運用などで備えておく必要があるでしょう。