外貨保険の販売トレンドが変わる「標準責任準備金」とは
日本では、日銀のマイナス金利政策によって金利商品で運用することは非常に厳しい状況になっています。そのため、比較的金利の高い海外で運用する金融商品が増えています。外貨保険もそのひとつです。
しかし、外貨での運用は為替リスクを伴うため、後でトラブルに発展することがあります。金融庁は、これらの状況を踏まえ、健全な競争環境を整備するため「標準責任準備金制度」を一定の外貨保険も対象としました。
この改正によってどのような影響があるのでしょうか。
外貨保険とは?
外貨保険は、正確には「外貨建て保険」といいます。簡単に説明すると外国通貨で運用する保険です。冒頭でも述べたように、日本の金利は極めて低いため、比較的金利の高い、アメリカやオーストラリアの通貨で運用する外貨保険は魅力的な商品として人気がありました。
しかし、コロナ禍によって、世界中の国の財政状況が厳しくなり、金融緩和に動いたため、金利が下がり、外貨運用のうまみがなくなってきました。
標準責任準備金とは?
保険会社は、保険契約者(お客様)から保険料を預かりますが、将来の保険金や解約返戻金の支払いに備えて準備金として積み立てをすることが保険業法で義務付けられています。それが「責任準備金」です。
この準備金の算定には一定のルールはありますが、保険会社が自由に決めることができます。しかし、長期の保険契約の場合、運用リスクが高くなるため、法令で定められた水準の準備金が必要になります。それが「標準責任準備金」です。
標準責任準備金の水準は、監督官庁である金融庁が保険会社の健全性の維持、保険契約者の保護の観点から定めます。標準責任準備金は、保険会社の負債になるので、高い水準の準備金が求められた場合、大きな負債を抱えることになります。
外貨保険が標準責任準備金制度の対象とされた背景
外貨保険は、外国の通貨で運用するわけですが、外国の通貨で運用するということは、日本円を外国通貨に両替しなければなりません。また、保険金や解約返戻金も外国通貨で支払われるため、受け取る場合にも外国通貨から日本円に両替する必要があります。つまり、2回両替が必要になるということです。
両替が発生すると手数料が発生します。また、両替の際に円高になっている場合、為替差損が発生します。日本で運用するよりも有利と思って加入したのに、結果的に元本割れしてしまうケースがあるわけです。
そのようなことから、国民生活センターには相談が多数寄せられています。(【参照】独立行政法人 国民生活センター)
また、外国の金利が低くなってきたことから、保険契約数も減少しており、保険会社の収益にも影響があるのではないかと懸念されています。
保険会社の経営が厳しくなって、保険金が支払われないということがあってはならないので、金融庁としては、早めに十分な準備金を積み立てさせ、保険金や解約返戻金の支払いに支障がでないようにしてきおきたいとうことがあるのでしょう。
まとめ
外貨保険は、高い運用利回りを武器に主に銀行の窓口などで販売されてきました。高い手数料が得られる外貨保険の販売は銀行にとって非常に魅力的だったからです。銀行は、退職金の運用を相談される機会が多いので、退職金の運用手段として外貨保険が利用されました。
しかし、2022年4月から標準責任準備金制度の対象になることで、金融機関の負担が大きくなります。外国通貨での運用が難しくなる中、負担が大きくなると、金融機関としてのうまみがなくなります。そのため、外貨保険の販売は縮小していくでしょう。
金融の世界では金融の知識のない人は圧倒的に不利な立場に置かれています。自己責任と言ってしまえばそれまでですが、外貨保険は一定のリスクをはらんだ商品です。もし外貨保険に加入する場合には、十分リスクを把握した上で加入するのがよいでしょう。