不動産価格上昇でも「争族」の火種に?事前の注意ポイント
2015年1月、相続税が大きく変わりました。
最も大きな変化は「基礎控除の大幅縮小」によりこれまで相続税とは無縁だった人でも、相続税を支払わなければならない可能性が出てきたのです。あわせ「争族」という言葉が盛んに使われるようになり、相続におけるトラブルが増えていることを象徴しています。
増加している不動産をめぐる相続トラブル
相続をめぐっては、遺産分割の方法や高額な納税負担が主なトラブルの原因でした。しかし、最近目立つのは不動産、とりわけ共有不動産をめぐるトラブルの増加です。「小さな自宅とわずかな預貯金しか無いので相続トラブルなど無関係だ。」そう思っている人ほどトラブルに巻き込まれるケースが増えています。
最大の原因は相続に対する事前準備ができていないことです。基礎控除の大幅縮小で最も影響を受けるのは、これまで相続税の対象外だったにもかかわらず、いきなり相続税を支払う必要が生じる人たちなのです。こうした人たちの多くは相続に対する準備ができていません。どれだけの相続財産があり、それをどのように分割するのか。そしてどのようにして相続税の支払いを行うのか。それはとても難しい問題です。
相続税の計算は課税価格の合計額から基礎控除額を差し引いて、課税される遺産の総額を計算します。基礎控除の縮小に加え不動産価格の上昇により、相続準備ができていないにもかかわらず相続税の支払いが必要になれば、トラブルはより複雑なものとなります。
相続は時間との勝負
相続税の申告と納付には期限があります。相続開始から10ヶ月以内に相続税の申告と納付を行わねばなりません。申告が1日でも遅れると無申告加算税が原則15%課されます。相続財産の大半が現金や預貯金であれば、すぐに納税することができますが、不動産が相続財産の大半を占めればどうでしょうか。すぐに都合良く買い手が見つかるとは限りません。ましてや、こちらの希望通りの価格で売却できるとも限りません。10ヶ月というタイムリミットを考えながら価格交渉を行う必要があります。
相続人がごく近しい身内だけなら良いのですが、顔も知らない親戚など広い範囲にわたる可能性もあります。場合によっては、会ったことも、話したことも無い人や海外に住んでいる相続人がいるということもあります。10ヶ月という時間内に相続税の申告と納付は事前の準備がなければ、想像以上に難航することもあるのです。
増加する共有不動産をめぐるトラブル
最近、特に増加しているのが、共有不動産をめぐるトラブルです。例えば、父親の遺産を二人で分けることになった兄弟がいるとします。母親は既に亡くなっており、他に相続人はいません。父の財産は相続評価額3000万円の土地付きの自宅と400万円の預金です。相続税の支払いは必要ないものの、二人で単純に1700万円ずつ遺産を分割することは事実上不可能です。もし長男が父と同居し、妻や子供と一緒にそこで暮らしていたとしたら、ただちに家を処分するわけにもいきません。
さらに土地の評価が事態をより複雑にします。相続税の算定根拠となる路線価による不動産評価は3000万円なのに、不動産屋で調べた実勢価格が5000万円だとすればどうなるでしょう。時価は5000万円だから2700万円を貰う権利があると互いに言い出せば、収拾がつかなくなります。
争族を避けるために
このように、相続は身内が互いに争い合う“争族”へと発展してしまうことが多いのです。そうならないためにも、相続の問題には生前から一日も早く向き合うことが必要です。具体的には相続財産、相続人を正確に把握し、誰が何を相続するのか、相続人間で話し合うことが必要です。そして、生前に遺言を作成しておくこともトラブルを未然に防ぐ有効な手段です。