M&A仲介の分岐点 仲介手数料に規制強化の流れ
中小企業を中心とした後継者不足問題を解消するという社会的な需要が高い業種として、今後のさらなる成長が期待されていたM&A仲介企業に暗雲が立ち込めています。
2025年問題とも呼ばれる日本の後継者不足による中小企業の継続が危ぶまれる事態に対して、企業買収はひとつの解決手段として有効です。
しかし、M&A仲介企業に対しては、以前から高額な仲介手数料が問題視されており、規制が強化される流れが出来つつあります。
M&A仲介を取り巻く状況について解説します。
後継者不足問題を解決するM&A仲介企業の報酬体系
M&A仲介企業とは、その名の通り、売却を希望している企業と、買収を希望している企業や投資家をマッチングさせるサービスを提供している業者です。
後継者問題だけでなく、経営者の力量不足が指摘されるスタートアップのM&Aを仲介するケースなどもあります。
M&A仲介企業は、買収を希望している企業や投資家の顧客を数多く抱え、売却を希望している企業を案件として見つけ出すことによってM&Aを実現させます。上場企業のM&Aとは異なり、中小企業の売却案件を探すことは難易度が高いためM&A仲介企業が果たす役割は大きいです。
こうしてM&Aが実現した場合には、両者をマッチングさせた仲介企業に対しては、売却した企業と、買収した企業や投資家の双方から仲介報酬が支払われます。
高額な仲介報酬と利益相反の懸念
難易度の高い交渉を成立させることで、M&A仲介企業は、仲介報酬を受け取っています。
不動産の場合には仲介業者が受け取ることができる報酬が宅建業法によって定められていますが、M&A仲介には業法がないため仲介企業ごとに報酬体系が異なります。
一般的には、売却金額が1億円以下の場合には5%程度で、1億円を超えれば3%程度といった段階的な手数料設定が行われています。
この成功報酬以外にも、相談料や着手金などの費用が発生する仲介企業もありますが、やはりメインの収入は仲介報酬となっています。
しかし、ここで問題なのが、このような成功報酬が売買の双方から受け取れるという点です。
宅建業法がある不動産業界においても売買や賃貸の双方から仲介手数料が受け取れる制度になっていますが、M&A仲介企業では報酬の金額、パーセンテージが非常に大きいです。
そして、仲介企業としては売買が成立する金額が高ければ高いほど、それに伴って成功報酬も高くなりますので、顧客である企業や投資家への利益相反が生じる可能性が指摘されています。
河野大臣からの問題提起に注目が集まる
M&A仲介企業の利益相反については以前から問題が指摘されていましたが、2021年の年明け直後に河野大臣が言及したことで注目が集まりました。
証券会社が主催したセミナーで登壇した河野大臣が、中小企業庁に対して要請して商習慣を変えるという問題に踏み込んだ発言をしたため、M&A仲介を主たる事業とする上場企業の株価が軒並み下落しました。
2020年にも経済産業省から、M&A仲介にかかる手数料について顧客に対して十分な説明を行うように行政指導を行った経緯があり、河野大臣の発言によって業界慣習への規制強化が実施される可能性が高まっています。
M&A仲介手数料への規制の流れまとめ
日本経済が抱える後継者不足という深刻な問題への解決策として、M&A仲介企業が果たす役割は非常に重要なものです。この点については、政府や行政も十分な理解をしています。
仲介企業が後継者不足に陥っている中小企業のM&Aを進めることは、日本経済を停滞させないためにも不可欠だと言えます。
しかし、政府や行政では、仲介企業の高額な報酬によってM&Aが円滑に行われないケースが増加していることを懸念しており、規制が強化される可能性が高まっています。
不動産の宅建業法のような仕組みが制度化されるまでには時間がかかりそうですが、規制強化によってこれまで通りの収益を上げ続けることが難しくなるM&A仲介企業が出てくることも予想されますので、しばらくは政府や仲介企業の動向を注視する必要がありそうです。