富裕層課税の取締り強化へ 「海外不動産節税」は縮小へ
富裕層向けの投資商品として高い人気を誇っていた海外不動産は、日本の税務当局による引き締めによって税制上の旨味が徐々に少なくなってきていました。
2021年以降に適用されるルールとして、2020年度税制改正大綱ではさらに取り締まりが強化されることが既に決定しています。
利回りなどの収益性では、日本国内不動産を上回るものの、これまでのように海外不動産を使った節税は事実上、不可能な状況となっています。
海外不動産を取り巻く税制上のトピックについてまとめてお伝えします。
海外不動産節税の仕組みを解説
世界各国の税制や税法は、その国々の歴史的背景や商習慣によって独自の進化を遂げており、大枠では似通っていても細かな部分では数多くの違いがあります。
タックスヘイブンなどの非課税国を含め、それぞれの国や地域の税制の特徴を活かしながら日本国内での納税額を下げることが、海外への投資の魅力のひとつです。
不動産の価格は一般的に、土地と建物に分けられており、建物については毎年の価値の減少を踏まえて減価償却という考えが定着しています。
土地と建物、そして減価償却という考え方そのものは世界的に見ても広く採用されている考え方なのですが、土地と建物の価格割合や、建物の耐用年数の違いによる減価償却のスピードには各国それぞれに大きな違いがあります。
この違いを有効に活用することが、海外不動産による節税です。
例えば、土地付きの戸建ての不動産を購入する場合には、建物の価値の割合が大きい国の方が、減価償却として毎年の損金に充てられる割合が大きくなります。
また、建物の耐用年数が短く設定されている国の方が、より大きな損金を毎年の収入から差し引くことが可能になります。
海外不動産の損益通算不可ルール
海外不動産による節税に適したアメリカなどの不動産を活用することで、不動産の購入資金のうちの大部分を損金に計上することができ、さらには短期間で大きな損金を発生させることが可能でした。
他の所得との損益通算を行うことによって、日本国内における給与や投資などによる収入から損金を差し引くことができたため、富裕層にとって海外不動産による節税は非常に効果的なものでした。
しかし、2021年以降、毎年の海外不動産の減価償却による損金を損益通算することを認めないルールへと変更されることになりました。
つまり、毎年の減価償却費が発生する場合であっても、その他の所得から差し引くことが認められず、節税効果は海外不動産の範疇でしか機能しなくなります。
所有されている海外不動産の金額や、国内での所得の大きさによって節税効果は異なりますが、これまでのように大きな節税を期待する海外不動産投資スキームは成立しなくなります。
海外不動産投資の魅力は無くなったのか?
節税を目的としたとき、海外不動産の魅力は大幅に縮小したと言わざるを得ない状況ですが、本質的には海外不動産の魅力は無くなってしまったのでしょうか?
現実的には、日本国内不動産と比較すると、やはり海外の国や地域の中には利回りの点で魅力がある物件が数多くあることは事実です。
また、同じく国や地域によっては不動産価格の上昇が期待できたり、上がらないまでも下落リスクが非常に少ない国や地域も珍しくありません。
つまり、節税案件として放置されたままになっていた海外不動産の節税メリットについては喪失してしまったものの、大きな資産を運用する受け皿としての海外不動産投資には魅力的な部分も残っていると言える状況ではないでしょうか。
ただし、これまで海外不動産に投資する日本人の多くが節税メリットを期待していたことを考慮すると、日本人投資家に依存してマーケットを維持してきた国々や仲介事業者、デベロッパーは存続が危ぶまれる状況になるかもしれません。
海外不動産節税と富裕層への取り締まり強化まとめ
世の中に広まる節税商品の多くは、税務当局による規制強化を受けて終焉を迎えるというサイクルを、これまでにも何度も繰り返して来ました。
不動産投資は、その性格上、どうしても長期的な投資であるケースが多いため、規制強化によるインパクトは大きなものとなりそうです。
将来的な税法改正などの動きを予想することは非常に難しいため、毎年の改正に対応して即座に対策を実行できる体制を整えておくようにしてください。