国税庁が規制強化へ 「信託型ストックオプション」を徹底解説
2023年5月末に国税庁が信託型ストックオプションに関する税制についての認識を公表して以降、大きな話題になっているこの制度。この記事では、信託型ストックオプションとは何か?なぜ問題になっているのか?について解説していきます。
ストックオプションとは?
ストックオプションとは役員や従業員が、自社株式をあらかじめ設定した期間内に、あらかじめ定めた価格で購入できる権利のことを言います。
例えば現在の株価が2,000円、今後5年間は自社株1,000株を2,000円で購入できるストックオプションを付与されたとします。
勤務している会社が急成長して株価が4,000円に上昇。このときに役員や従業員がストックオプションの権利を行使すると、自社株を2,000円で購入できます。この時点で売却をすれば、1,000株✕2,000円=200万円の売買益を受け取ることが可能です。
仮に株価が下落した場合はストックオプションの権利を行使しなければ、株を購入したことにならないため、売却損が出ることはありません。
ストックオプションは、将来上場を目指すベンチャー企業や、すでに上場している企業に適している仕組みです。導入することで優秀な人材の獲得が期待できる他、従業員のモチベーションアップにつながるでしょう。
ストックオプションにはいくつかの形態がありますが、中でも「信託型ストックオプション」が近年、注目を集めています。
以下、信託型ストックオプションのメリット・デメリットについて解説します。
信託型ストックオプションとは?
信託型ストックオプションとは、会社が受託者にストックオプションをまとめて割り当て、あらかじめ定めたルールに基づいて役員や従業員にストックオプションを交付する仕組みです。
まず信託型ストックオプションの登場人物は以下の通りです。
これを踏まえ、信託型ストックオプション導入の流れを見ていきましょう。
信託型ストックオプション導入までの流れ
委託者と受託者の間で信託契約を締結し、委託者が受託者にストックオプションの取得資金を信託します。
次に取締役会にて、新株予約券の発行決議を経て、ストックオプションの払い込み、発行が行われ、受託者はストックオプションを管理する立場となります。
一方、発行会社は企業における役職や勤続年数、企業の業績、会社への貢献度に応じてポイントを付与。付与されたポイントに応じて役員や従業員はストックオプションを受け取ることができます。
最終的に役員や従業員は、ストックオプションを行使して株式を取得、売却することで売却益が得られる仕組みです。
信託型ストックオプションのメリット
信託型ストックオプションにはどのようなメリットがあるのでしょうか?主なメリットを紹介します。
発行回数を減らせる
信託型ストックオプションは受託者が最初にまとめて引き受けます。発行が最初の1度だけで済むことから、コストの削減に繋がります。
貢献度に応じた割り当てができる
信託型ストックオプションは、ポイントに応じた割り当てができます。そのため勤続年数や役職、会社への貢献度など、人事評価を割り当て量に反映させることが可能です。
株式価値の希薄化を防げる
行使価格は当初発行時点の株価を基準に一律で決定されます。そのため潜在株式数の増加が抑えられ、株式価値の希薄化を防ぐことができます。
信託型ストックオプションは規制が強化される?
2023年5月29日国税庁は、信託型ストックオプションは給与所得(最高税率55%)として課税されるという認識だと説明しました。しかし同制度にメリットを感じ、すでに導入している企業は、株式売却時点で株式譲渡所得(約20%)という認識があり、国税庁と企業で認識が異なっていることが発覚したのです。
国税庁の認識を採用すると、ストックオプションで大きな利益を得た役員や従業員の所得税負担が大きく増える可能性があります。またすでに受け取った人も、必要があれば会社が遡って源泉徴収するとしています。
基本的に今後は、国税庁の認識に合わせる形となるため、結果的に規制が強化されることになるでしょう。
2023年6月時点ですでに20社以上の上場企業で税負担が増える見通しを示すなど、信託型ストックオプションを巡る波紋は、まだまだ広がっていきそうです。