米国での株式売買手数料無料化。日本に与える影響とは
2019年9月初旬、アメリカのオンライン証券会社インタラクティブブローカーズが、株式取引について手数料の無料化を発表しました。さらに10月上旬、同じくアメリカのオンライン証券会社チャールズ・シュワブが、株式売買手数料の無料化に追随しました。
このインタラクティブブローカーズとチャールズ・シュワブの手数料無料化のニュースによって、アメリカ株式市場では同業他社であるオンライン証券会社の株価が急落するなど大きなインパクトを与えました。
日本国内でも、アメリカでのオンライン証券の手数料無料化のニュースが大きく報じられただけではなく、すでに国内のオンライン証券会社の各社が無料化を発表しています。
対岸の火事ではなく日本へと飛び火している株式売買手数料の無料化の流れが、いったいどのような影響を与えるのか、最新のニュースを追いながら解説いたします。
どうしてオンライン証券会社は無料化することが可能なのか?
証券会社が株式の売買手数料を無料化すると聞いて、多くの方が最初に疑問に思うことは、手数料を無料化して営業が成り立つのだろうかということです。
実際、証券会社のなかには株式などの売買手数料が売り上げの多くを占めている会社があります。しかし、インタラクティブブローカーズやチャールズ・シュワブの場合には、資産管理手数料や預金金利収入などの売買手数料以外の収入が多いため、無料化へと踏み切ることが可能でした。
アメリカのオンライン証券会社であっても、TDアメリカトレードやE*トレードなどは売買手数料に依存する経営方針であったため、即座に無料化に追随することができませんでした。
このような収益構造の違いは、売買の回数によって手数料を稼ぐビジネスと、顧客が収益をあげたときに証券会社も儲かるビジネスという本質的な違いを表しています。
これまで証券会社と言えば、数多くの営業マンやアナリストを社内に抱え、多額の設備投資を伴うトレーディングシステムの開発を行うことで同業との競争を行ってきました。
しかし、インターネットによる売買のオンライン化や、システム開発費の低下によって、同じ証券会社であっても以前と比較すると随分と中身に変化が起こっています。
つまり、さまざまな証券会社のなかでも特にオンライン証券会社が売買手数料の無料化へと転換するのに有利な組織体制で、さらに売買手数料に依存しない経営方針だった会社ほど容易に無料化へと舵を切れるということになります。
日本のオンライン証券会社も株式売買手数料を無料化へ
金融システムが閉鎖的な日本では、アメリカで起こったことが数年遅れで実現するのが常識でしたが、今回のアメリカでの無料化の動きには日本国内のオンライン証券が即座に反応しました。
実はアメリカでの無料化のニュースよりも3か月ほど前、日本では米国株式の最低取引手数料を巡って、オンライン証券会社3社が激しい値下げ合戦を行いました。
2019年7月4日、マネックス証券が米国株式の最低取引手数料をこれまでの5ドルから0.1ドルまで引き下げるという発表を行いました。すると翌5日は楽天証券が0.01ドルへの引き下げを発表、さらに週が明けた8日にはマネックス証券が0.01ドルに追随、そして9日にはSBI証券がついに最低取引手数料の無料化を発表しました。
12月に入ってからも、日本のオンライン証券会社では投資信託の買付手数料の無料化などを続々と発表しており、3社による値下げ競争が続いています。
オンライン証券会社の手数料無料化の行く末
株式を気軽に購入することができるようになる売買手数料の無料化は、トレーダーにとっては大歓迎の措置です。
日々のトレードでの手数料のコストが無くなり、さらに市場が活性することによって取引による収益機会が増えることが期待できます。
しかし、証券業界全体を見たときには、2020年以降の急激な業界再編が起こるであろうことが容易に想像できます。
売買手数料を無料化しても生き残れる証券会社と、存続ができない証券会社という明暗がすでにはっきりとしてきているのがアメリカの現状です。
ただし、無料化でも生き残れるオンライン証券会社にとっても、やはり売買手数料が収益のなかの一定の割合を占めていたことは事実ですので、これまでと同じ顧客数では経営的には厳しいのが本音です。
このため、業界再編については、生き残れなかった証券会社が吸収されるということだけでなく、生き残った証券会社にも「吸収合併を繰り返して大きくする必要性」があります。
アメリカの株式売買手数料の無料化の影響まとめ
旧態依然の証券会社の価格設定を維持しながら、IT技術によってコストを下げることで、急激に成長したオンライン証券会社が新たなステージに入りました。
これまでは低コスト高収益の経営を続けてきましたが、いよいよ株式手数料を無料化しても経営が続けられるという利点を活かして、業界再編の波を作っています。
アメリカで資産管理を得意とするヘッジファンドや大手銀行では、このような手数料無料化や業界再編とは無縁であるとの立場を貫いていますが、どこまで耐えられるのか疑問の声が上がっています。
もちろん、オンライン証券会社が同様の動きを見せている日本も同じで、古くからの伝統ある証券会社が、現在の流れについていくことは困難であることは間違いありませんので、数年のうちには大手の倒産や、オンライン証券による買収などのニュースが出てくる可能性が高いです。
売買の回数によって手数料を稼ぐビジネスから、実際に顧客が儲かることによって収益を得るビジネスへと、証券業界は急激な変化を求められています。