インフレ率と為替レートの関係

横田くん:
インフレ率の高い国では名目金利が高くなる必要がある、という点はよく分かったのですが、よく考えたらそれはその国に住んでいる人の場合ですよね? 例えば、その国に住んでいない外国人(非居住者)の場合は関係ないような気がするのですが・・・

投信先生:
もちろん、外国人が預金するにあたり、インフレ率は直接関係ないかも知れないね。だけど横田くんは重要な点を見落としていないかな? だって外国人が預金する場合には、必ず通貨(為替)の問題が出てくるよね?

横田くん:
それはそうですが・・それとインフレ率って何の関係があるのですか? さっぱりイメージが湧きませんが・・・

投信先生:
ちょうどよい機会だから、ここではインフレ率と為替レートの関係を考えてみよう。ちょっと難しいかも知れないけど、頑張って付いてきてね。

横田くん:
付いていきます! だけどなるべく簡単にお願いします!

投信先生:
まずは結論を先に言うね。
例えば、日本とアメリカを比べた場合、アメリカのインフレ率が高いことが多いけど、その場合にはインフレ率の高い通貨、つまり米ドルは安くなることが多い(円高ドル安)。

横田くん:
?? さっぱり分かりません! 先生、さっきの預金のような具体例で教えて貰えますか?!
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投信先生:
例えば、自動車会社が自動車を販売するケースを考えよう。日本では100万円、アメリカでは1万ドル、為替レートは1ドル=100円としよう。
アメリカのインフレ率は100%(1年後の物価が2倍!)、日本はゼロ、ちょっと極端なケースの方が分かりやすいはず。
さて1年後にはどうなっているかな?

横田くん:
これは簡単です! 日本の自動車は100万円のまま、これがアメリカでは2万ドルに値上がりしているはずです!

投信先生:
そうだね。この場合、1年後の為替レートが100円のままだった場合、どうなると思う?
日本の自動車会社は大変なことになりませんか?

横田くん:
確かに・・ 日本で販売したら100万円の自動車が、アメリカでは倍の値段(200万円)で突然売れることになりますね! 自動車会社にとってはハッピーですね! 輸出したら一気に大儲け! 
うーん・・ でも何かがおかしい??

投信先生:
そうなんだよ。こんなことになったら、自動車会社にとっては錬金術みたいなことが起きてしまう。同じ自動車が突然倍の値段で売れることになるからね。でも金融市場は自動車会社の錬金術を簡単には許してくれない。つまり、インフレ率の高い通貨は長期的には安くなる傾向がある。

横田くん:
市場の力ですか! やっぱり世の中甘くないという意味ですね! 確かに無リスクな儲け話が簡単に転がっていれば、みんな同じことを考えますよね? 

投信先生:
横田くんも分かってきたみたいだね。
このケースでは1ドル50円の方向へ強烈な円高圧力がかかるはず。ちなみに1ドル50円なら日本の自動車100万円、アメリカの自動車も100万円(2万ドル×50円)で同じになる。この考え方を「購買力平価」と呼ぶんだ。

短期的にいつでもこれが成立するわけではないけど、長期的には為替レートはこの方向へ引き寄せられる傾向が知られている。つまり、高金利に釣られて新興国の債券へ投資をしても、せっかくの金利収入を為替差損で飛ばしてしまうリスクがあるということ。こうなると、投資家の手元には円ベースの利益があまり残らないことになってしまうね。

横田くん:
考え方は何となく分かってきました! でも、実際には新興国債券を買ったお客様の中には、為替レートで大きな利益を得ている人をよく見かける気がします・・・ 先生の言う「市場の力」が本当にいつでも働いているのか、今一つ納得できない部分が残りますけど・・

投信先生:
横田くんの疑問も当然だね。だけど横田くんのお客様のようなケースは決して珍しいケースではないよ。
実際、リーマンショック前の2003年~2007年頃にかけて、インフレ率の高い高金利通貨(新興国通貨)が大きく上昇し、インフレ率の低い低金利通貨(円が典型)が下落する現象が出現している。この期間は先ほど指摘した錬金術が成立してしまっている。リーマンショック後の2009年頃にも同じ現象が起こっているね(図表5)。

横田くん:
なるほど・・錬金術が成立する瞬間もあるということか・・・ やっぱり新興国通貨/債券への投資は大きなリターンを生み出すことがあるということですね! 俄然やる気が出てきました! 明日から自信を持って営業活動をすることが出来ます!

投信先生:
ちょっと待って!! チャートをよく見てほしい。(図表5)をよく見ると、何らかの市場ショックが発生するタイミングでは、これらの投資は大きな損失を出している様子が分かるかな? その前にせっかく積み上げた利益を短期間で吹き飛ばしてしまっているよ。
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横田くん:
うーん、、VIX指数(恐怖指数:数値が大きいほど市場の不安心理が高いことを示す)が高まったタイミング、例えば2008年(リーマンショック)、2011年(東日本大震災)、2015年(中国ショック)にかけて確かに一気にリターンを失っているみたいですね・・・階段でゆっくり上り、エレベータで一気に降りるみたいな・・・そんなチャートになっていますね。

投信先生:
その通り。新興国通貨を的確に表す良い表現かも知れないね。(図表5)を見ると、新興国通貨はタイミング次第では大きなリターンを出すこともある一方、長期では必ずしも大きなリターンを生み出しているわけではない。

長期では先進国債券への投資と大して変わらないようにも見え、正に「骨折り損のくたびれ儲け」になっていないかな? やはり長期では錬金術を許してくれない「市場の力」が作用しているように見えるね。

横田くん:
なるほど。見かけの金利で〇〇年後の損益分岐点の為替は〇〇円、そこまでの円高はないだろうと思って買っても、長期では負けてしまうケースも多いということですね・・・

今日は本当にありがとうございました!

(図表5)新興国通貨への投資は振れ幅が大きい(市場ショック時に大きな損失を出す傾向)
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*ブラジル、メキシコ、インド、インドネシア、南ア、トルコ、ハンガリー、ポーランドの各通貨へ均等投資
*米ドルで資金調達を行い、上記8通貨へ均等投資したものとして計算
*調達・運用は短期金利を想定(各国3か月金利)
*比較対象の世界債券は米ドル建てで計算
(Bloombergデータに基づきファイナンシャルスタンダード作成)


~ここまでのまとめ~
◎インフレ率の高い国では名目金利が高くなることが多い(重要なのは実質金利)
◎高インフレ率の通貨は安くなる方向へ「市場の力」が働く(そうならなければ錬金術が発生)
◎市場の力は短期では効いていないように見えることもあるが、長期では無視できない力が働く


<全体のまとめ>
以上見てきた通り、新興国債券は一見金利が高く見えますが、その裏側には高いインフレ率が隠れていることがあります。したがって異なる国の金利を比較する時は、「実質金利」の考え方が重要です。新興国金利を「実質金利」の観点で観察すると、実はそれほど魅力的ではないケースもあり、要注意と言えます。

また高いインフレ率の通貨は中長期で下落する可能性が高い点にも注意が必要です。「市場の力」は錬金術を簡単には実現させてくれないからです。そうなると、せっかく手にした高い金利収入を通貨安で相殺してしまうため、トータルで投資家の手元に残る利益は平凡なものに終わる可能性が高くなります。

新興国の為替は大きく振れるため、高いリスクでリターンは平凡、正に骨折り損のくたびれ儲けとなってしまうリスクがあります。特に長期で投資を続けるほど、このような傾向が強まるはずです。

もちろん、新興国通貨への投資を全て否定するつもりはありません。短期で大きなリターンを生み出す可能性もあるため、「楽しみの範囲内」で行えば投資の醍醐味を感じる機会になるかも知れません。


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第一弾:グローバルロボティクス株式ファンド 今後の見通し・評価2019(2018年10月12日)



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