金融機関に相談をしたが損をしたという経験をお持ちの投資家は多いでしょう。
逆に金融先進国のアメリカでは、資産管理において「ゴールベースアプローチ」という考え方が定着して運用実績を上げています。

当コラムでは「運用においてアドバイザーは必要かどうか」「ゴールベースアプローチがいかに個人投資家の長期運用において必要か」について考えていきます。

1、ゴールベースアプローチとは?
ゴールベースアプローチとは、一人ひとりの将来の目標(ゴール)を定め、資産管理を行う手法です。ゴールを達成するために、目を向けるのはリターンだけではありません。

具体的にはゴールを達成するために、投資税制優遇制度(iDeCoやNISAなど)も有効に活用しながら、戦略を練っていきます。このように「資産の置き場所」を考慮することを「アセットロケーション」と言います。また、各投資家の目標や許容リスクに合わせて国内外の株式や債券等投資対象の配分比率を決めることを「アセットアロケーション」と言います。

日々の価格変動は気にせず、「アセットロケーション」や「アセットアロケーション」を考慮して長期的にゴールを目指します。

こうした手法は日本ではまだまだ確立されておらず実践出来ていませんが、海外では定着した手法で、実践できていると感じました。
(関連コラム:米国のIFA 海外視察レポート ~アメリカで本場の資産コンサルティングを体験~ )
私たちにはそれぞれの人生があるわけで、一人ひとり人生における財政面の目標は違います。こうした個人の目標を一人一人からヒアリングし、戦略を組み立てていくことは重要です。

近年はコストの安いインデックス投資が世界的に投資の中心となっています。しかしゴールベースアプローチの考え方に基づくとインデックス投資は必ずしも万能ではありません。なぜなら「市場平均=自分のファイナンシャルゴール」というわけではないからです。

本来、各投資家のゴールに合わせた「アセットロケーション」や「アセットアロケーション」を考えたうえで必要に応じてインデックス投資を組み込むべきですが、ただインデックス投資が良いと聞いて、自分の目標との関係性を考慮せずインデックス投資をしている人が日本では多く見られます。

既に資産が十分ある人はインデックス以下の成績でも十分目標(パーソナルゴール)を達成できます。そうしたケースではインデックス投資は“過剰なリスクテイクをしている状態”ともいえるでしょう。
インデックス投資にはメリットがたくさんあります。しかしあなたの幸せとインデックス(市場平均)は何の関係もないのです。あくまで目指すべきは「あなたの目標」なのです。

また、(GPIFなどの)年金基金が採用している資産配分と同じように運用をする個人投資家もみられます。しかし、半永久的に運用が出来る年金基金と個人の目標は違います。だとしたら、あなたの取るべき資産配分も違ってくるでしょう。高度な金融工学を駆使して作り出したポートフォリオ(資産の組合せ)が、あなたにとってベストかどうかは別物です。

あくまでもあなたが目標とすべきは、あなたのパーソナルゴールなのです。


2、なぜゴールベースアプローチが必要なのか?
ではなぜゴールベースアプローチが必要なのでしょうか。

第一に、人生における財政面での満足を得るためには、あなた個人の目標を達成することが重要になります。
自分に合った目標を立てることが資産形成・資産運用を行う第一歩です。また、目標なき行動は結果に結び付きません。これは運用に限らず、日常のあらゆることにも当てはまります。

個人投資家であるお客様に「なぜ運用しているのですか?」と尋ねると、明確な答えが返ってくることはとても稀です。多くの方は「預金に置いておいても仕方ないから」とおっしゃいます。

“貯めたお金で将来何がしたいのか”、“いくらあれば自分は安心な老後が過ごせるのか”といった質問に明確な答えをもって投資を始めるお客様は少数派です。変な話ですが、これは意外と普通なことです。
こうした場合にはざっくりでもいいので、目標を決めてそこから逆算して今行うべき投資金額やリスク許容度を見極める必要があります。

それとは逆に、将来の家計の予想キャッシュフロー表を50年分作ってご持参され、「この計画に沿った投資がしたい」というお客様もいらっしゃいます。キャッシュフロー表を作ることは非常に有意義です。無駄があるなら控えないといけないし、将来の“なんとなく不安”が解消されるケースもあります。

しかし注意すべき点もあります。
キャッシュフロー表上の「将来の給料」「年金」「退職金」「相続する資産額」「インフレ率」は全部予想でしかないのです。また想定外の支出が発生することもよくあることです。

前提条件が想定よりも大きくずれるケースもあります。そうしたズレが発生し調整が必要になった時は、当初決めた目標が重要になります。

第一に、目標がないと人間は頑張れないことが多いです。また目的が無いと終わり方も分からないのです。そして目標が無いと“ブレ”ます。ブレると目標と全然違う行動を取ってしまいがちになります。

例えば投資を開始して、わずか1か月で100万円儲かれば嬉しいでしょう。しかしそれはあなたの人生においてどの程度重要なことでしょうか。本当は1か月で100万円の利益確定をするのではなく、数十年かけて何千万円(人によっては何億円)の資産を形成する方が重要なのではないでしょうか。
あくまでも目標を目指してブレずに運用することが大切なのです。そのためにも目標と行動を常に見比べることが必要なのです。
投資は始めることは簡単です。しかし「続けること」が難しいのです。そうした課題に対して目標の設定は大きな意義があります。

第二に、目標設定が重要である根拠として、「人の資産を取り巻く環境の複雑さ」と「人は非合理的な行動をしてしまうという行動経済学の視点」が挙げられます。

「人の資産を取り巻く環境の複雑さ」から説明します。一般的に、日本人の資産は不動産のウェイトが大きいです。金融資産には生命保険や株式、投資信託など様々な資産があります。資産家であれば事業承継は大きな課題になります。資産家でなくても、「人生100年時代」に資産をどう形成し取り崩していくか、高齢になった時どう資産を管理するか等悩みは尽きません。

ひとりひとり置かれた環境や考え方は違います。それに対して画一的な回答は無いはずです。そうした個別の環境や考え方の違いを無視して、“このポートフォリオがおススメ”というのは「部分最適」の考え方であり、その人のファイナンシャルゴールまでたどり着くことは出来ないのではないでしょうか。

そして、「人は非合理的な行動をしてしまうという行動経済学の視点」にも注目すべきです。近年注目を集めている行動経済学ですが、人間は「間違い」ます。非合理的な行動をとってしまいます。それは人間が感情の生き物だからでしょう。何もしなければいいところを途中で魔が差して、非合理的な行動をしてしまうものです。そうした非合理的な行動を抑制する意味でも目標を設定し、今の行動が目標に向かっているかを再考することには大きな意味があるのです。


3、日本の資産運用の現実はどうか?
日本の多くの個人投資家は「資産運用=儲けること」だと考えている人が多いように思います。「どうしたら資産を減らさず運用できるか」より「どうすればリターンが得られるか」を考える投資家が多いのです。

供給サイドである日本の金融機関がそのような提案をしてきたことも背景にあると考えられます。昔はアメリカも同じでした。1987年公開の映画“ウォール街”では証券営業マンたちがひっきりなしに電話をかけ「この株がおすすめです」とセールスをしています。しかし、次第に提案する商品は短期化・高リスク化していきます。約30年前のアメリカの姿ですが、今のアメリカのファイナンシャルアドバイザーは「短期で儲かる話」ではなく、「長期的に資産をどう形成し、管理していくか」が話題の中心です。

日本ではお客様と金融機関との話題の中心は「相場」であることが多く、主題が不動産・保険・相続など資産全体になることは多くありません。お客様の環境の変化を継続的に見ていくスタイルではありません。お客様側も資産全体の管理を証券パーソンや銀行員に求めることはしないので、資産の一部で金融パーソンの勧める高リスク商品を購入する傾向があります。

金融パーソンは転勤が頻繁に起こることが付きものですので、積立投資のような時間のかかる投資法への関心は薄いです。なぜなら積立を20年しても、その時には既に自分は転勤しており、自分のメリットにはなりにくいからでしょう。
M&A案件のような短期的に収益化できる案件には関心は強いですが、数年かけて企業の財務アドバイザリーをしたり、世代をまたぐ資産承継の提案は、営業員としてのインセンティブが働きにくいのが現状でしょう。

投資は基本的に良いポートフォリオを組み、無駄な売買を無くし、長期で保有することで相当の利益を生み出すものなのです。しかし人間の心理や日本の金融文化がそれを阻害しているのではないでしょうか。


4、アドバイザーって必要なの?IFAが出来ることとは何か?
結論から申し上げると、 “アドバイザーが必要となる投資家”は多いと思います。なぜなら投資判断を人間は間違う(もしくは判断できなくなる)ケースが長期運用を続ける過程で発生しやすいからです。

投資をしていて間違いを起こすケースは色々ありますが、中でも多いのは相場観を活かして短期で売買を繰り返した結果、相場と手数料の両方で損をする「短期運用をして失敗する人」、部分最適にこだわり全体が見えていない「論理的に間違っていく人(論点がずれている人)」、○○が伸びそう(例:AIファンドがよさそう)という直感で判断する「感覚的に間違っていく人」に大別されるのではないでしょうか。

実は単純な長期分散投資や積立投資のような“投資の王道”といえる運用手法というのは思いのほか難しいものなのです。相場を見て運用してもプロに勝てる個人投資家はごくわずかです。手数料が安い投資信託を選んでも、続けられないのであれば効果は期待できません。直感的に相場が良いからという理由で買っても高値掴みになりがちです。

投資の世界では自信過剰な人が損をするとよくいわれます。自分の相場観に自信を持って売買を繰り返すタイプの投資家でしょう。しかしそのタイプは利益が上げにくいのです。
また、過去3年や5年分のデータをみて自分なりの分析をして、一番いいパフォーマンスの商品に乗り換える投資家もいらっしゃいます。しかしデータでは過去3年や5年でパフォーマンスが『悪い』商品のほうが、その後のパフォーマンスは良くなる傾向が顕著です。偶然、相場環境が良くてパフォーマンスが良かったのか、もしくは投資信託の“運用戦略”が良かったから成績が良かったのかが判別できないのであれば、銘柄選択は無意味になります。

米国では人生に必要な3人の友人の話があります。医師・弁護士・ファイナンシャルアドバイザーです。豊かな人生を送る上では不可欠な存在として認知されています。日本では病気になれば医者に行き、裁判になれば弁護士を探しますが、運用に関しては自分でやろうとする傾向があります。普通に考えるとなかなか難しいことではないでしょうか。

長期運用は長い人ですと数十年に渡って運用が必要になりますので、運用途中で悩むことは多くなります。例えば“日経平均株価が○○年ぶりの高値”となると「いったん売っておいた方がいいのではないか…」と考え、長期投資と分かっていながら魔が差して利益確定してしまうことはあり得るでしょう。

積立投資も始めるのは簡単ですが、“続けること”は難しいのです。人間は株価が急騰している時に売却したくなりますし、急落している時も売却したくなります。しかし景気は循環しています。10年もあれば急騰と急落を経験します。運用期間が30年なら何回も急騰と急落を繰り返し経験することになります。その全てで長期投資を意識して継続保有することは難しいことです。

また積立期間が長期になると運用している金額が大きくなります(積みあがっていきます)。昔なら10%相場が上下したから10万円利益(損)だった、という状態から、今では10%相場が上下したら200万円利益(損)だった、となっていきます。金額が大きくなっていくと、判断が鈍る(出来なくなる)ケースが多くなります。そうしたケースでは第三者の意見が必要になることでしょう。

そして一番アドバイザーが必要になるケースは“全体最適”が必要な時でしょう。保険・不動産・相続、会社経営者であれば自社株対策、不動産所得の多い方なら法人化など資産運用以外にも目配りが必要なケースになると、部分最適の組み合わせでは対応が出来なくなります。一人ひとりやりたいこと(やりたくないこと)は違いますし、目標を達成するための猶予期間も違います(相続対策でも80歳の方が行う対策と50代の方が行う対策は違います)ので、定期的に状況を整理し進捗を確認することが不可欠です。

そうした作業は全体最適を追求する訓練を受けたアドバイザーでなければ難しいことです。また、全体最適の提案は担当者一人で出来るものではなく、各分野の専門家がチームを組んで全体像(目標)を共有しながら施策を実行していく必要があります。(アメリカではIFAのチーム体制が一般的になってきています)

全体最適を維持するために重要なのはモニタリング(定期面談)です。定期面談を長期にわたって繰り返すことで、顧客の環境や意向の把握を行います。病気・転職・相続・介護など想定外の変動があれば、他の資産とのバランスを勘案して目標に沿った対応/修正を行うことがゴールベースアプローチでは必要になります。

では逆にどのような投資家にはアドバイザーは不要なのでしょうか。

  1. 全体の資産の検証が必要でなく

  2. 金融理論をしっかり理解しており

  3. 相場変動を確率的にとらえ、過去の平均に収斂すると信じられ、

  4. 相場変動に動じないと確信できる人


以上のような条件にすべて当てはまる人は、なるべくコストの安い投信で国際分散投資をすれば良いでしょう。

アメリカのIFAは世代を問わず、(資産運用・不動産といった)資産の種類を超えて、個人投資家のファイナンシャルゴールに向かって伴走をしている存在だと感じました。生きている以上切っても切り離せないお金の悩み。資産の全体最適を実現できるアメリカ型のファイナンシャルアドバイザーは最もファイナンシャルゴールの達成に適した存在になりうるのではないかと考えています。


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