為替報告書(Semiannual Report on International Economic and Exchange Rate Policies)は、米国の財務省が年2回、4月と10月に連邦議会に提出する為替市場に関する報告書のことです。同報告書に書かれた内容によって、為替市場の動きが左右されることもあり、トレーダーとしては動向をチェックしておくべきだといえるでしょう。今回は、為替操作国の定義や2016年10月に公表された最新版の報告書の中身について見ていきましょう。

米国財務省半期為替報告書とは
前述のように、米国財務省半期為替報告書とは、米国の財務省が半年ごとに連邦議会に提出する為替市場に関する報告書のことです。

基本的に米国の利益を守る立場で記述されており、介入などで為替を操作し、通貨安を誘導して自国に利益誘導しようとする国を批判したり、各国の経済政策を分析したりといった内容になっています。米国が各国の為替政策をどのように判断しているかをうかがい知る手がかりとなります。

報告書発表による中国・日本・ドイツ・韓国・台湾への影響
中国への影響
2016年10月の為替報告書は、オバマ政権として最後の報告書となりました。まず注目すべきは、中国に関する記述です。10月といえば、過激な公約を掲げる共和党のトランプ候補(現大統領)が、米大統領選の選挙活動中、中国を為替操作国として厳しく批判していた時期です。

しかし、同報告書では、監視国リストに中国、日本、ドイツ、韓国、台湾、さらにスイスを加えただけで、「為替操作の法的定義に抵触する、主要貿易相手国はなかった」と結論づけ、中国を「為替操作国」としてみなしませんでした。

それどころか、前回(4月)の報告書公表以降、人民元相場の動向に改善がみられると指摘。中国政府による人民元の切り下げは、通貨の急激な下落を防いで世界経済への打撃をさけたと評価しています。中国の経常黒字の減少がその背景にあるとみられます。こうした記述から、オバマ政権は、中国の為替政策に対し、トランプ氏とは異なる見方をしていたことがわかります。

ただ、次回4月に発表されるトランプ政権初となる為替報告書で、中国がどのような評価をされるかは未知数です。経常黒字の減少が続けば、ルール上、中国が監視リストから外れるという見方も、市場関係者の間で出ています。

日本への影響
日本については、直近までの1年間で対米黒字が676億ドルと大きく、経常黒字もGDP比3.7%と高いものの、直近5年間にわたって為替介入を避けてきたため、10月の報告書でも為替操作国の指定や制裁は受けてはいません。

しかし、報告書では「円安への誘導を狙って何度も公に発言してきた」と日銀の口先介入をけん制。輸出企業などに配慮して円高を抑えようとする日本政府に対し、「米ドル/円相場は円滑に機能している」と指摘して、さらなる為替への介入にクギをさす格好となっています。

現状、日本が円安を目的に為替介入をする場合、一国だけではその効果は限定的で、各国同意の上での協調介入が必要です。しかし、米国が現状のドル/円相場に一定の評価を与えている以上、為替介入による円安誘導へのハードルはますます上がったといえそうです。

ドイツ、韓国、台湾、スイスがリスト入りした理由
ドイツ、韓国については、大規模な経常黒字や対米貿易黒字が監視リスト入りの理由だと指摘しています。台湾については、為替介入の規模が大きいこと、今回リスト入りしたスイスは為替介入の規模や対米貿易の拡大、中央銀行による継続的な海外資産の購入が理由として指摘されています。

為替操作国の定義と監視リストの役割
同報告書では、2016年4月分から、貿易相手国の為替政策について「監視対象」とする「監視リスト」を公表しています。これは、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)合意に向けて2015年に成立した「大統領貿易促進権限(TPA)法」、さらに2016年2月に成立した「貿易円滑化・貿易執行法」に基づいて、米国が独自に分析、発表しているものです。

監視リストは、貿易相手国へのけん制に加えて、米国国内で貿易相手国が為替安誘導で自国製品を米国に売り込んでいるという批判が出ていたため、TPP批准に向けて米議会を懐柔する狙いで設けられたとみられます。

米国は、貿易相手国が、貿易を促進する目的で不当に通貨安を誘導していないかなど、為替政策が不公平でないかを、以下の3つのポイントで判断しています。

・対米貿易黒字が200億ドル以上
・経常黒字が国内総生産(GDP)比3%以上
・年間の為替介入規模がGDP比2%以上


この3つの基準すべてを満たす国に対しては是正を促し、1年たっても改善が見られない場合には、相手国企業を米政府との取引から締め出す、通商協定の締結や交渉参加にあたって米通商代表部に考慮を求める、といった制裁ができるとしています。

2項目に該当する国は、「監視リスト」として監視を強める対象として指定されます。監視リストが初めて公表された2016年4月の報告書では、中国、ドイツ、日本、韓国、台湾の5カ国・地域が対象となりました。監視リスト入りした国は、2期連続で基準をクリアしなければ対象から外れない、というルールがあります。日本は貿易収支と経常収支の2項目でオーバーしているため監視リスト入りしていますが、これら指摘項目は一朝一夕で改善できるものではなく、引き続き監視リスト入りすることが予想されます。

2017年4月は米国の政権交代後、初の為替報告書となります。2017年2月23日ムニューシン米財務長官は為替操作国に指定する際の基準や手順について「従来の方法を踏襲する」と述べています。そのため中国や日本などの指定を見送る公算が大きいと考えられます。

しかし出方の読みづらいトランプ政権ですので、これまでとはガラリと方針が変わる可能性もあり、油断は出来ません。もし仮に為替操作国と認定されると今後の日本政府・日銀の金融政策の自由度が低下する事が懸念され、円高傾向になる可能性が警戒されます。4月の為替報告書には注目が集まりそうです。


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