新たな2022年問題 社会保険適用範囲拡大の影響を整理する
2022年10月から社会保険の適用範囲が拡大されます。続いて、2024年10月にもさらなる社会保険の適用範囲の拡大が予定されています。
政府はなぜ社会保険の適用範囲を拡大しようとしているのでしょうか。
また、この拡大によって、従業員や事業主はどのような影響があるのでしょうか。
社会保険とは?
社会保険とは、
①健康保険、②厚生年金、③介護保険、④雇用保険、⑤労災保険
の5つの総称です。
ただ、一般的に「社会保険」という場合、「健康保険」と「厚生年金」の2つを指すことが多いです。
日本は「国民皆保険」と言って、全ての国民が何らかの公的医療保険に加入することが義務付けられています。
主なものとしては、サラリーマンなどが加入する「健康保険」、公務員などが加入する「共済組合」、それ以外の人が加入する「国民健康保険」があります。
また、年金には、20歳以上の人が全て加入する「国民年金」があり、サラリーマンなどは「厚生年金」が上乗せされ、公務員などは「共済年金」が上乗せされています。
政府が社会保険の適用範囲を拡大する背景
社会保険は、相互に助け合う制度であり、自分が支払った保険料が積み立てられてそれが返ってくるというものではありません。
特に年金は、現役世代が支払った保険料が今の年金受給者に年金として支払われるという仕組みになっています。
ところが、日本は少子高齢化が進んでおり、年金受給者が増えて、それを支える現役世代の人口が少なくなっています。
このまま何もしないでいると、現役世代の保険料負担が重くなってしまいます。そこで、政府としては保険料の急減な上昇を抑えるため、社会保険の適用範囲を広げて、社会保険の対象者を増やそうとしています。
3 社会保険の適用拡大の内容
(1)現在の社会保険の適用範囲
①従業員が501人以上の会社であること
②所定労働時間が週20時間以上であること
③月額賃金8.8万円以上であること
④勤務期間1年以上見込まれること
⑤学生でないこと
という要件を満たす人が社会保険の加入対象です。
なお、従業員が500人以下でも、労使で合意すれば社会保険に加入できます。
(2)2022年10月からの適用範囲の拡大
①従業員が101人以上の会社であること
②所定労働時間が週20時間以上であること
③月額賃金8.8万円以上であること
④勤務期間2か月以上見込まれること
⑤学生でないこと
という要件を満たす人が社会保険の加入対象になります。
(3)2024年10月からの適用範囲の拡大
①従業員が51人以上の会社であること
②所定労働時間が週20時間以上であること
③月額賃金8.8万円以上であること
④勤務期間2か月以上見込まれること
⑤学生でないこと
という要件を満たす人が社会保険の加入対象になります。
社会保険の適用範囲拡大の影響
社会保険の適用範囲が拡大すれば、社会保険に加入する対象者が増えます。
社会保険料は、事業主が2分の1を負担しなければならないため、社会保険に加入する対象者が増えれば、事業主の負担が増えることになります。
2022年10月以降、従業員が101人以上500人以下の事業所では、パートやアルバイトの社会保険料の負担が増える可能性があるため注意が必要です。
また、社会保険加入の手続も必要になることから、事務負担も増えることになります。
その他、雇用への影響も考えられます。
適用範囲の拡大によって、パートやアルバイトの人が社会保険の加入対象になった場合、パートやアルバイトの人も社会保険料を支払わなくてはならなくなります。
そうすると、手取りが減るため、「労働時間を20時間未満に減らしたい」などの申し出が増える可能性があります。
その影響を受け、人手不足の事業所においては人材のやりくりに支障をきたす可能性があります。
まとめ
以上のとおり、社会保険の適用範囲が拡大され、社会保険の対象者が増えると、事業者や従業員の保険料負担が増えます。
また、社会保険の対象にならないようにするため、労働者の労働条件の見直しが必要になるかもしれません。
一方で、社会保険に加入することによって、従業員側にとって年金受給額が増えることや傷病手当金が支給されるなどのメリットもあります。
そのため、求人などを出す場合、パートやアルバイトでも社会保険に加入できるということを前面に出すことで、会社の信用を高められるという効果が期待できます。